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うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

『宇宙はなぜこのような宇宙なのかーー人間原理と宇宙論』

サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』『暗号解読』『代替医療のトリック』などの名翻訳で知られる青木薫さんの初の著書が出ていたとな! 2013年末の朝日新聞の書評欄の「今年の本」的なコーナーで福岡伸一さんが挙げていたことでようやく発行を知った。6月の発行であった。迂闊だった。これは読まねばならないでしょう。その日立ち寄ったジュンク堂に在庫がなかったので、ついkindle版を買ってしまった。この手の本はリアルな本で読んだ方が理解がしやすいのだけど……。

いやあ、面白かった。さすが!

人間は、いかにこの世界を理解しようとしてきたのか。宇宙はなぜこのような宇宙なのか。

科学と哲学にまたがるこの壮大なテーマを追うために、本書は冒頭で一気に数千年もの時をさかのぼる。古代バビロニア人からピタゴラスプラトンアリストテレスプトレマイオスコペルニクス、カント、ゲーテニュートンアインシュタイン……。
科学の歴史に大きな足跡を残したそうそうたる偉人達の業績の要諦を、私のような素人にも、まあ、きちんと理解できているかはどうかは相当怪しいながらも、まるで理解したかのように錯覚できるほどには十分に平明に、大きな歴史の流れを見失うことなく解説していく手並みは実に鮮やかで、読みながらうっとりしっぱなし。生まれ変わったら青木薫になりたい。

本書のテーマになっている「人間原理」とは、今まさに宇宙がこのような形であるのは、われわれ人間が存在しているからに他ならない、という、人間を特権化した自己中心的すぎる響きを持つ考え方のことだけれど、簡単に「トンデモ」と一蹴することはできない、と著者はいう。

結論からいえば、現代の宇宙論の最前線では「この宇宙以外にも無数の宇宙が存在している」という「多宇宙ビジョン(=さまざまな宇宙が無数にありえると考える宇宙観)」が標準化しており、人間原理が前提する「唯一無二の宇宙」という宇宙観そのものが崩れてしまっている……のではあるのだけれど、人間がその知力をもって未知の領域を狭めようと努力すればするほど、その彼方に不可知はますます広大に広がり、そのギリギリの境界線上では、実証を旨とする科学も、宗教的な「祈り」に近づいてしまうのが必然だし、「非科学的な」人間原理から生まれた仮説が、時に科学によって実証されてきたのも事実なのだ。

そして、物理学者たちが熱烈に求め続けた「シンプルでエレガントな究極の真理」も、実は存在しないのではないか、と混沌の21世紀の宇宙論は告げている。

……実にエキサイティングでスリリング!

とはいえ、複雑に作り込まれた世界観には、それが真実であるかどうかに関わらず、抗いがたい魅力があるわけで。
実は、この本を読んでいて個人的に最も興味を引かれた部分は、現代科学的には全く意味を失っているさまざまなバリエーションの美しい仮説だったりもする。
著者が本書後半で挙げたケプラーの「多面体宇宙モデル」。
プトレマイオスの“どの現象も十分に救われる”「導円ー周転円モデル」。
カルデア人が磨き上げた西洋占星術の体系さえも……。