うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

『小さいおうち』

[監督:山田洋次 脚本:山田洋次、平松恵美子 出演:松たか子黒木華片岡孝太郎吉岡秀隆妻夫木聡倍賞千恵子]

私、一番好きな作家は中島京子かもしれない。いやたぶんそうだ。マイベストはやっぱりなんといっても『イトウの恋』。これはイザベル・バードの『日本奥地紀行』を下敷きにして、あっと驚く視点変換を加えて描き出した名作だけど、田山花袋のじくじくした私小説『蒲団』を女性目線でサバサバと明るい太陽の光のもとに引きずり出した『FUTON』も、『イトウの恋』同様に、過去の作品に想を得て鮮やかに換骨奪胎した小説で、読んでいてめくるめく気持ちよさが味わえる。さらに『桐畑家の結婚』や『平成大家族』のように、家族を中心とした人間関係のうだうだを執拗に凝視して愛を込めて細かく語る系統の作品も、その細かさとリアリティがもう、たまらないのよね……。

そしてこれ、直木賞受賞作の『小さいおうち』は、“史実調べ系”と“家族うだうだ系”を足して濃度を増したような傑作で、読書の楽しみがぎゅぎゅっと詰まった本当に面白い作品。後味の悪さはNHKの朝ドラ史上№1だった『純と愛』で独特の存在感を放っていた黒木華主演で映画化されるというのだから観に行かねば、と観に行った。さて、あの「秘密」はどう描かれているのかしら! とわくわくどきどき。

映画は、原作をかなりシンプルにした上でかなり説明を加え、さらに細部を改変してラブストーリー部分にフォーカスされているので、設定の妙とか、当時の世相を表すディテール表現の緻密さとか、登場人物のセリフの含蓄とか、すっぱり謎解きしない曖昧さなどといった原作の魅力の多くがなくなってしまっていて、原作が大好きな私としてはちょっと残念。とはいえ、原作からイメージされる画が、かなりきちんとビジュアル化されているところが何といってもあっぱれで、それだけで観る価値があると思った。そして、キャスティングの絶妙さが出色。文句のつけようのない女中顔の黒木華。高い頬骨とあごのなだらかなライン、クラシックな造作が昭和レトロモダンな装いにはまりすぎる松たか子。純と蛍のさりげない共演もよかったし、吉行和子の奥様ぶりとか、室井滋のいじわるぶりも。倍賞千恵子はもう少しずうずうしいおばあちゃん像でもよかったのではないかと思うし、正直、妻夫木くんはどうかと思ったけど…。

分かりやすすぎる説明的な描写は「好みか」と聞かれると好みではないけれど、山田洋次監督の健全な批判精神がストレートに感じられるところに好感を持った。長かったけど、楽しめた。

●映画「小さいおうち」オフィシャルサイト

 

小さいおうち (文春文庫)

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イトウの恋 (講談社文庫)

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FUTON (講談社文庫)

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