うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

震災前の神戸

 1980年代の終わりに「過ぎし日のセレナーデ」というドラマがありましてですね。舞台は神戸、主演は田村正和、脚本は鎌田敏夫、主題歌はヤンスギョンの「愛されてセレナーデ」。大人の男女が入り乱れるメロドラマです。


 いやしかしほんとにこのドラマの田村正和が、もうむちゃくちゃ格好よくてね。ギャグとかボケとか一切なくガチでかっこいいという。田村正和といえば古畑任三郎が当たり役、なんていわれてますけども、ああいう三枚目入ったギャグっぽいのは真骨頂ではないよな。1943年生まれだそうですから、当時46歳だったのか。ヒロインの高橋恵子も冗談みたいにめちゃくちゃきれいであった。彼女は1955年生まれだそうなので当時34歳か……! 若っ。


 私はドラマ放送当時の1989年には18歳の受験生で、奈良の実家の居間のコタツで受験勉強しながらこのドラマを見ていた。田村正和はヤクザになったり、社長になったり、市場の仲買人としてチャキチャキ働いてみたり、バーでサックス吹いてみたり、ケーブルカーの中で拳銃を取り出してみたり、港でトレンチコートの衿を立ててタバコ吸ってみたり、いきなり女を乱暴に抱きしめたり……、これらをすべてギャグなしで、ガチにかっこよく、八面六臂、変幻自在の大活躍をするもんですから、もう、すごいんですよ。色んな顔を見せられちゃって。〝ギャップがたまらん〟というところのギャップの数と落差のありえないほどの贅沢さに、誰もが恋に落ちてしまう仕組み。


 私はおぼこい高校生だったけど、私だって正和に恋に落ちた。成熟した大人の恋物語、とはいえ、子どもの頃の淡い恋愛感情が人生の最後まで影響を及ぼすようなストーリーなので、高校生だってそれなりに感情移入できてしまい、めくるめく脚本に酔いしれましたね。ちょうど秋から冬の放映だったので、はっきり志望校を決めていなかった私は、このドラマに影響されて神戸〜阪神間の大学を志望することにした。毎週ドラマで神戸港の汽笛を聞いたり、六甲山に上るケーブルカーの中の決闘や、新神戸駅での別離の光景などを眺めているうちに「神戸、いいやん!」と思ったのだ。バカみたいな話。


 受験の日に初めて阪急電車に乗って、「御影〜」という駅アナウンスを聞いて、思わず車窓からホテルの影を探した18歳の私。ドラマの中では「御影のホテル」が重要な役割を果たしていたもので。でも、その後神戸に住むようになてから知った実際のロケ地は摩耶山中腹で今も廃墟としてその姿をさらす「摩耶観光ホテル」であった。


 贅沢な洋風の邸宅、港のそばのレストラン、神戸大橋が見える高速道路。ドラマに登場するのは阪神・淡路大震災を経験する前の神戸。まあ、こうやって羅列したようなものは今だってあんまり変わらずここにあるわけですが、やっぱり震災前後では「異国情緒!」とか「ジャズ!」とか「国際的な港町!」とかのガチさ加減が全く違う。今では「神戸らしさ」という茫洋たるイメージを構成する要素にすぎないそれらのものたちが、震災前は本当にちゃんと実態として存在してたんだよね。そういう時代の一面を切り取ったドラマとして、今もう一度見返すとどんな感想を持つのだろうか、自分。


 今でも新神戸駅で新幹線を待っていると脳内に♪愛した〜ひとたちを〜思い出に閉じ込めて〜♪というメロディーが響いて少し悲痛な気持ちになったりする。街を歩いてて、汽笛がボーッと聞こえたりした時も、サッとドラマみたいなシリアスな空気が一瞬よぎることがある。

 

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