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うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

有吉佐和子『処女連禱』

いやー、やっぱ面白いわ、久々の有吉佐和子
かつて何かの書評本に、斎藤美奈子が「『有吉佐和子を読むと癒される』といってる女友達がいて、ほんまかいなと思って読んだらほんまに癒されて驚いた」というようなことを書いていたことから(もちろん原文ママではありません。関西弁のはずないし。原意まちがってたらごめんなさい。原典探します)興味を持って、いっときむさぼり読んだことがある。
メロドラマ風の『不信のとき』、ミステリ風の『悪女について』『開幕ベルは華やかに』、絢爛たる芸者ものの『香華』『芝桜』、大河ドラマの風格漂う『紀ノ川』、ちょっと朝ドラみたいな立身出世物の(だったっけな。とにかく面白かった記憶はある)『仮縫』などなど。どの作品でも、一癖も二癖もある女がいきいきと活躍しまくって、もーほんとに面白いんですよ。読みかけると途中で止められない。1冊読むと次の1冊を買ってしまう。(といつつ、代表作の『複合汚染』や『恍惚の人』『華岡清州の妻』などは読んでない。なんとなく)

今回の『処女連禱』は、1957年(昭和32年)、作者26歳のときの作品だそうで。没後30年を記念して復刊されたというのを昨年こちらのブログで知ったのだが、気になりつつも読む機会が作れていなかった。入院に際してようやく買い、ベッドの中でほくほくと読んだ。

d.hatena.ne.jp


物語は、終戦直後の昭和20年代の東京の女子大キャンパスを舞台に幕を開ける。卒業を間近に控えた7人の女子大生グループが核となる登場人物だ。まず、物語の語り役として中心的な役割を占める文代は、教師の就職口が決まっている優等生。その文代と最も仲がよいのが、出版社の編集者に決まったトモ子。彼女は作者の有吉佐和子を投影したような才気煥発なキャラクターが光る。さらに、学究肌で大柄な体躯を持つ女傑・朋枝、世間知らずのクリスチャン・薫、垢抜けた美貌を持つ麗子と珠美が脇を固め、サバサバとした女子大の空気に馴染まぬ濃厚な「女」の気配を漂わせる良家の子女・祐子が少々異質な空気を放つ。
時代はまだまだ働く女性が珍しく「職業婦人」などと呼ばれていた昭和20〜30年代。独身=処女の前提も当然のように社会に共有されていた頃だという。さて、学問という武器を得た前途洋々たる乙女たちが卒業後、どのような人生を送るのか。結婚は、仕事は……? というわけで、主に結婚をめぐる選択を中心的な話題にしつつ、7者7様の30歳までの人生が描かれる。といいつつも、スムーズに結婚・出産に至るのはこのうちなんとただ1人。戦争によって同世代の男性が多く戦死したため、女子が大量に余っていたご時世なのだ。最先端をゆく女性たちはエリートであるがゆえに「負け犬」と化し、しかし平成の「負け犬」のような吹っ切りを持ち得ないまま、さまざまな鬱屈を自家中毒ぎみに募らせてゆく。結婚や恋愛のことを最大関心事に据えながらも、あくまで男性不在のままで。しかし、結婚をめぐる「女による女のための女の問題」感は、確かに現代にも通じるテーマといえましょう。

そして、それぞれ個性の異なる女性がいきいきと活写されるキャラクターの躍動感こそ有吉文学の読みどころ。本作も、7人の元女子大生だけでなく、大学時代の恩師の陽気な〝老嬢〟ミス・ライエル、奇妙な存在感を放つ翻訳家・五十嵐みつ、「女」の世界の生きづらさを抱える同級生・楠本みよか等、キャラの立った独身女の描写も秀逸で、ちっとも古びていない。これを26歳で書くってすごいよなー。

作者の見解が反映されているのか、時折はさまれるミサンドリーめいた記述にも笑った。

しかし指折り数えて倉賀野祐子と醍醐公彦との交際は、もう十年にもなる。偉いものだと思った。文代の経験では一年でも観察すれば大概の男は愚劣だという結論に突き当たってしまうものだのに、十年一日の如く醍醐が、公彦さんが、と云い暮せた祐子は、自身も云う通り幸福なのに違いないと思った。

 

ね、男の人って、単純で、善人で、参っちゃわない? 同感だわ。それでいて不潔でしみったれてて、小心で。だからさ、入れあげる気にはなれないんだ。それに私たちよか稼げる男って私の周囲にはそういないのよ。此方で養うのなんて真っ平だし。と平林珠美。年寄りは絶対に嫌だし、若いのは生活力なしだし、困ったものだわ、と武井麗子。だが漠然とだけど、昔よりか偉い男性が尠くなったような気がして、と文代。
正田トモ子が彼女の結論を、あらためて宣言した。
「だからサ、私は断然、独身で通すわ」

 
今のアラサーキャリア女性でもおんなじようなことを女子会で言ってそうで面白い。まあでも、こんな風に条件とカテゴリーで人を断じる視点は誰も幸福にしないんですけどね。

 

 

処女連祷 (集英社文庫)

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