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うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

狂ったツンデレ映画『神々のたそがれ』

撮影6年! 編集5年!! 完成を待たずに監督が死んでしまったものの、遺された家族が完成へと導いて、今、奇跡の公開!!! という「え?」と思わざるを得ない異常な制作経緯。そして、以下のようなとんでもない筋書き。

「地球より800年ほど進化が遅れている別の惑星に、学者30人が派遣された。その惑星にはルネッサンス初期を思わせたが、何かが起こることを怖れるかのよ うに反動化が進んでいた。(中略)地球から派遣された学者の一人に第17代貴族ドン・ルマータと名乗る男(レオニド・ヤルモルニク)がいた。ルマータは、地域の異教神ゴランの非嫡出子であるとされていた。誰もがこの話を信じたわけではないが、皆ルマータのことを警戒した。(中略)ある日、ルマータは皇太子のいる寝室で当直の任務に就く。だがその直後に、彼は寝室に押しかけた“灰色隊”に取り囲まれ、逮捕を告げられる。」(公式サイトより)

www.ivc-tokyo.co.jp


めっちゃ面白そうじゃないですか? 予告編を見ると、異様に濃密なモノクロ映像。ウンベルト・エーコ様の「アレクセイ・ゲルマンに比べれば、タランティーノはただのディズニー映画だ」という強烈な惹句。なにこれ絶対見たい! と思うじゃないですか。思いますよね。というわけで、神戸・元町のミニシアター「元町映画館」で観た。

いやーすごかったですね。中世をイメージさせるリアリティのある穢い世界観。ただし、上に書いてあるようなストーリーは全く理解できず。登場人物が誰が誰かもさっぱり分からない。出てくる人はみんな鼻炎なのか始終鼻をぐずぐずさせていて手鼻かみまくるし、排泄物は垂れ流すし、ゴハンをちゃんと口に全部入れることすらできないんですよ。常に口から漏らしている。全員が。それをぼとぼと床にこぼす。掃除はしない。なんか泥を顔を塗りたくったり、ぬかるみをべちゃべちゃ歩いたり、室内には動物の死骸がぶらさがりまくっているばかりか、人間の死体すら転がっていて蝿がたかっている。派遣された地球人たちは文明人のはずなのに、現地人と同様にツバはくし、暴力ふるうし、常に酔っ払ってるし、やってること一緒。むしろ権力をかさに着てやりたい放題。地球人が神と崇められている、という設定も画面からはよく分からない。主人公はやたらと「赤毛、赤毛」といわれていたけど、『王家の紋章』で古代エジプトにタイムスリップしたブロンド娘・キャロルが「黄金の娘」といって崇められるみたいなものですか。違うか。
とにかく「ストーリーや設定を理解してもらおう」というサービス精神はゼロ、だけど画面は思わせぶりに過剰に濃密。フレーミングを放棄したような見切れまくりのショットがあるかと思えば、ハッとするほど絵画的な風景が現れたりして体を乗り出さずにいられない瞬間もたびたび訪れるというツンデレぶりで、わけがわからないのに画面から目が離せない。それが3時間続くんですよ。3時間!! といいつつ、まあ、私は不思議に退屈しなかったな。面白くはなかったけど、すごいものみた、という感じはする。でも、これを6年かけて撮影するって完全に狂ってると思う。

原作はロシアのストロガツキー兄弟による1964年のSF小説『神々はつらい』だそうで、この原作がヘンなのか思ったら、こちらのブログを読むと、原作はちゃんとSFらしい。あの額のアクセサリーがカメラだったとは! 怒りはしないけど唖然とはするよね。

『神々のたそがれ』1: 大橋洋一

まあしかし、画面に現れる人みんなが破壊ばっかりしてて、誰一人生産的なことをしないのは結構なストレスになるな。でもみんな衣服を身につけているし、精密に作られている鉄の鎧や武器もあるし、ルマータはサックスみたいな楽器を吹いているし、もちろん煉瓦づくりの建物とかはあるわけで。これを作った職人たちはみんな殺されたのでしょうか。やっぱエントロピー増大しっぱなしの世界というのは人間にはキツい。
最後はもうスプラッターの様相で、腸がズルズルしたりしてたし、死体から取り出した目玉が「キラキラするよ」なんていっておもちゃになったりもしてましたけど、人間のいわゆる「内面」ではなく、物質的なパーツや排泄物だけに異常に注目することで、人間は本来的にゴミに過ぎない、放っておけば腐臭を放つ肉塊にすぎないという当たり前のことを強烈な映像でこれでもか、と見せてくれているわけで、現代人としては、自分が排泄物や汚辱とは切れた存在であるとは絶対に思わない方がいいよな、ということは強く感じたのでありました。