うだうだと考える日記

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異物が侵入してきた社会のリアリティ『第9地区』

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http://wwws.warnerbros.co.jp/district9/#/DownloadScene

[2009年米 監督:ニール・ブロムカンプ キャスト:シャールト・コプリー、ジェイソン・コープ、デヴィッド・ジェームズ、ヴァネッサ・ハイウッド]


『チャッピー』が面白かったので、ニール・プロムカンプ監督の第1回監督作『第9地区』をDVDで見た。

舞台は南アフリカヨハネスブルグ。突然上空に現れた宇宙船から、衰弱したエイリアンが多数保護される。彼らは当初こそ難民として保護の対象となるが、人間には似てもにつかぬ「エビ」のような不気味な容姿、宇宙船を実現した技術レベルとは大きな乖離が見られる低い知能レベルに人々はだんだんと差別意識を募らせていく。エイリアンは人間とは隔離されたスラムのような居住区「第9地区」で暮らしていたが、宇宙船登場から20年を経て、「人間とエイリアンのより快適な共生」という建前のもと、国の軍事機関の主導により、人間の居住区から遠いエリアへの強制的な移住作戦が始まる。この地区の責任者に抜擢された職員・ヴィカスは粛々とその移住作戦を実行していくが……。

ドキュメンタリー風映像で、突然エイリアンとの共生が始まった人間社会を、アパルトヘイトの歴史を持つ南アフリカの抱える問題を重ね合わせながら描いたSF。一方的に人間を攻撃するタイプのエイリアンではない難民設定が面白い。でも巨大な宇宙船の存在から、そのテクノロジーレベルの高さは明らかではあるが、エイリアンたちはハチやアリのような階層社会を構成する設定になっており、何らかの理由で上層部が全滅したとみられる状況下、いわゆる「働き蜂」だけでは組織的に地球人を攻撃することも、宇宙船を動かして故郷に帰ることもできず無力な難民として長時間釘付けになってしまう。その設定の妙たるや。

エイリアンという新しい住民が日常化していく過程で、エイリアンの存在が土着の呪術医療「ムティ」の新しい材料として取り込まれていったり、エイリアン相手の「貧困ビジネス」が蔓延したり、ほんの少しエイリアン側に足を踏み入れてしまった人間が、すぐさま社会から人間性の剥奪を宣告され、正義の名のもとに公然と差別されてゆく恐怖のプロセスが始動したりと、「エイリアン」というSF設定を取り外しても、異物が侵入した社会でいかにも起こりそうな事態が描かれているのが、恐ろしいが面白い。

主人公のヴィカスは、監督がコメンタリーでも語っている通り、いかにも官僚的で、実力も人徳もないくせにからっぽなプライドだけは高い本当にイヤな奴、というより「ちっちぇー奴」なんだが、その描き方(服とか髪型などのキャラクター造型も含めて)が秀逸。

エイリアンの造型は「アリ」のような「ハチ」のような、あるいはゴキブリのようでもある醜いものだが、後半、エイリアンの中でも突出した知性と冷静な判断力を持つ「クリストファー」とヴィカスの交流が始まると、クリストファーの放つ思わぬ人間味が美しく、知らず知らずのうちに異形の彼に感情移入をしてしまうことになる。思わぬ自らの視点の変容を体験させられる感じも、いいんだよね〜。

クリストファーはじめとするエイリアンの動きは、まず人間の俳優が演じたものを撮影し、モーションキャプチャー技術を含む手間のかかる作業を駆使してCGに置き換えたものだそうだが、元の演技を担当しているのは、劇中でジャーナリストとしても登場しているジェイソン・コープさんだそうで。
どうでもいいことですが、私、この人の見た目がめちゃくちゃ好みなんですよね。インテリっぽいのにどこか崩れた雰囲気があって、エリート臭がない感じ。日本人俳優の田中哲司さんにとても似ている。映画を見ている時点ではエイリアンの「中の人」のことは知らなかったんだけど、クリストファーに魅力を感じた一端は確実にこのジェイソン・コープさんの素敵さがにじみ出たものに違いない。素敵だ、ジェイソン。

「え、そこ麻酔なし?」とか「え、それを操縦できるってどうよ」「そこは死ぬやろ、普通」とか、突っ込みどころは色々ありますが、とても面白かった。『チャッピー』とそっくりといえばそっくりで、類似のシーンもちょいちょい出てくるけれど、どっちもいいね!

 

それにしてもこの予告編はなんだ。効果音もアナウンスもハリウッド風のおかしなものになっとるがな。

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第9地区 [DVD]

第9地区 [DVD]