うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

愛だろ、愛! 『東京タラレバ娘1〜3』

「中年の危機」感がぶり返している。なんしか最近の自分の劣化がひどいから。しかし、私の外見や体力が「劣化」したところで世界の誰が気にするというのだ。私の背中に肉がつこうと、顔の皺が増えようと、それがなかったからといって美的レベルが目に見えて上がるわけじゃなく、所詮はBBAの誤差の範囲内なわけで……。と気にしないふりをしていたのだが、こないだ自分より年上の男性に年上に間違えられて自分でも驚くぐらいめっちゃ凹んだという事実。気にしないふりをしていた自分の欺瞞性……。

そんな前フリはどうでもいいが、かように体はアラフォー、見た目はアラフィフな私が、またもやこんなアラサー用の話題マンガを買ってしまった。絶対に私に向けられた作品じゃないのにさ。巷ではあまりの切れ味のよさに独身アラサー女子が憤死してるそうじゃないですか。

「タラレバばかり言ってたらこんな歳になってしまった」
脚本家の倫子(33歳)は、恋も仕事もうまくいかず、同じくアラサ―独身女子の香、小雪と焦りながらも「女子会」を繰り返す日々。
「キレイになったらもっといい男が現れる!」
「好きになれればケッコンできる!」
そんな話しばかりしていると、突然、金髪イケメン男子(年下)に「このタラレバ女!」と言い放たれてしまい…。

 
ううーーん。面白いマンガであることに疑いの余地はないけれど、悶々とする内容ですなあ、これ。

だいたいKEYっていうモデル男はなんなんだ。たかが22、23歳で達観して大人に説教垂れやがって、何様だっつーの。しかもお前のやってることほぼ強姦やないか。偉そうに語って恫喝することで自分の言動を正当化するなんてワザ、若いくせにどこで覚えてきたんだよ。ルックスがよいことをカサに着た傲慢野郎め。もっと人間に対する畏敬の念を持ちやがれ。これを「愛」に還元しようとする倫子の心理って、ほとんど性暴力被害者の心理じゃないの。痛々しすぎるわ。こういう立場のキャラクターが必要なことは分からないでもないけれど、それを若い男に仮託するのは筋が悪くないかなあ〜。なんかめっちゃ嫌な感じなんだけど。

香の元カレのバンド男もひどすぎる。なんか作中では「売れないバンドマンの彼を見捨てた女こそが悪」てな流れになってるけどさ、仮に結婚してたとして、あんな男と幸せになれるはずないやん。だって今、売れたのをいいことに、定石通りに見栄えのよい若いモデルを本命彼女としながら、ファンの女とも遊びまくってる男やで? ザッツ最低やがな。香がもし結婚してたとしても浮気が原因で今ごろ離婚してるに1万点。そんなもん回転寿司のメタファー以前の話やで。売れない時に男を支えた「糟糠の妻」を捨てて、若く美しい「トロフィーワイフ」を手に入れる。権力志向の男の凡庸すぎるライフコースじゃねーか。それを正当化するわけ? それでも糟糠の妻になって男に尽くせというのかいな。あほくさ。その間にネイルサロン持って大正解やで。何も悔いることなんてないよ!

男は年齢とともに仕事ができるようになり、金と権力も手に入れ、セックスアピールも増す。
女は年齢とともに性的価値が減少し、「若い女性ならでは」の感性を失って仕事もできなくなる。
そんなトンデモ世界観を自明視した上でそれに乗っかることを奨励しているようにしか見えないストーリーなんだが、憤死してるアラサー女子は本当にそれでいいんだろうか。

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東村アキコ『東京タラレバ娘』KC KISS 2巻 p151〉


結婚するまで女はリングの上で殴られ続け、結婚したらリングを降りてセコンドになるって? なんでやねん。んなわけねーだろ! なんでそんな古くさいこと今さら言われなあかんねん。結婚したって自分の人生、自分が主役に決まってるだろ。そんなの甘い夢でもなんでもない。現実を生き抜くための最低限の信念やんか。

しかし女も腹立つわ。特に倫子や。30代なんか、人生でいちばん仕事できる時期やんか。漠然とした将来の不安に起因する薄っぺらい結婚願望なんぞに振り回されて仕事をないがしろにするなぞ愚の骨頂。さっさと仕事しろ! 「若い発想」だけで評価されるほど甘い世界とちゃうやろ? 10年間蓄積してきたスキルを見せろよ! 今、働かねーでいつ働くんだよ! 30代前半で現にアシスタント抱えて事務所維持してるだけで十分勝ち組やないか。え、出会いがない? そんなもん環境を変えてないお前の自業自得じゃ。10年前に告白された男のいる会社が未だにメインクライアントってどうやねん。今の実力を生かせる新しい仕事先開拓したらもれなく出会いもついてくるに決まっとるやろ! けったくそわるいクライントなんぞ切って新しい河岸に移れ! まだ33歳やで! まだまだ若手や。まだまだピンチはチャンスやっちゅーねん。ほんま腹立つわ。

 

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東村アキコ『東京タラレバ娘』KC KISS 3巻 p95〉

だいたい、女が経済的な保証として男を見てる限り、男が若さと美貌だけを女を評価しても文句はいえまい。「アラサー女の使えるものは貯金だけ」っておまえアホか! 経済力があるからこそ、男を経済力や社会的地位だけで判断せずに恋愛できる自由があるんじゃねーか。そんな恵まれた環境ないって気づけよ! 若さと美貌で男にすり寄るのは、それしかできない女の生存戦略じゃねーか。それを真に受けてどーすんねん。

アラサー女子は、こんなのでグサグサくるなんて、あまりに愛が足りなくないか?
東京オリンピックなんざ女友達同士で盛り上がればいいやないか。仕事がある。友達がいる。年齢相応以上の美貌がある。愛がいっぱいやんけ。どこに不満があるねん、めちゃくちゃ幸せやないか!



ところで、本当に男子なのかと疑わずにいられないほど、こじらせた女の心をよーく理解してらっしゃる、アラサーが女子会に呼びたいライター日本一の(たぶんね)福田フクスケさんは『東京タラレバ娘』に、以下のようなレビューを書いてらっしゃる。

【レビュー】アラサー女性を少女漫画の洗脳から解き放て! - 『東京タラレバ娘』 | マイナビニュース

つまり『東京タラレバ娘』は、決してアラサー独身女性に非があると責め立てるための漫画ではない。ただ、彼女たちを毒する「少女漫画脳」というロマンティック・ラブ至上主義の洗脳を、いささかスパルタなショック療法によって解こうとしているのではないだろうか。


男に甘い夢を見てしまう「愛」の幻想からアラサー女性を解放し、自立させるため、作者はあえて鬼になっているのだ。

 

えーほんまかいな。「愛」の幻想から解放するがための愛のムチだって? まあ、私の感想自体が、結局そういう内容になってるわけだけど……そうなのかね、やっぱ。
でもさ、私も結局のところ、一番大事なのは「愛」だと思うんだわ。

 

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東村アキコ『東京タラレバ娘』KC KISS 2巻 p26〉

 

男だって、仕事だって、愛がなけりゃ面白くもおかしくもないやん。せっかく好きなことを仕事にしてるのに、倫子さんみたいにルーティーンでステレオタイプのお話ばっかり書いてそこに疑問がないなんて、そこが一番ひっかかるわ。倫子さんはラブコメにこだわらんと『井戸端会議の鬼』の脚本を愛を込めて緻密に書けばいいのに。面白そうやんか。アシスタントの着想が素晴らしいなら、その若い着想にプロならではの技術をプラスして、こなれた脚本に仕上げてみせて周囲を納得させるのがあんたの役割やんか。なぜ後進と同じ土俵で張り合うのか。


などと怒ってみても本当は空しい。福田フクスケさんはああ言っていたけれど、やっぱりこれは設定に悪意があると思うもん。だってリアルに働いてるアラサー女性は、実際もっと真剣に仕事に向き合ってると思うから。だいたいチャラい憧れだけで表参道にオフィスやサロンを構えるのは無理だよ。スポンサーのパパをつかまえてるってゆーんなら話は別だけど、男の手を借りるなんて思いも寄らないあのメンバーだよ?


女子会いいやんか。どんどんやればいい。一生懸命働いて、女子にしか分からん仕事のストレスや恋愛ネタをおもしろおかしく女子会で披露して盛り上がって明日への活力にするの、全面的にいいことじゃないか。そんなん既婚・未婚問わずにみんなやってるよ。男と飲むより楽しいもん。新橋のサラリーマンがやってるのと一緒。みんなやればいい。なんであかんの。まだ恋愛が始まってもいない相手のことを、結婚の条件というフィルターを通してしか見られないなら恋愛なんかしないほうがマシだ。