うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

[本メモ]EPITAPH東京  きみは赤ちゃん

いろいろと余裕ない。ちゃんとレビュー書こうと思うと滞りすぎるので、とりあえず2冊メモ。

 

恩田陸『EPITAPH東京』

EPITAPH東京

EPITAPH東京

 

面白かったなー。恩田陸って『六番目の小夜子』『三月は深き紅の淵を』ぐらいしか読んでなかったけど、どっちも面白かった。その割に数を読まなかったんはなんでなのかよく分かんない。なんでやろ。新刊『EPITAPH東京』は、6月に入院した際に、仕事の取引先の方がプレゼントしてくださったという与えられた出会いで読むことができた一冊。
舞台は現在の東京であり、物語(これを物語というならば)の主役も東京という都市である。3.11以降、現実の裂け目から、その底に魔界がほの見えるようになった東京という都市。馬頭観音、将門塚、霊園……。冒頭からたたみかけるように提示される街の断面、裂け目たち。ここから一気にリアルの隣にある異世界に引き込まれる。
「筆者」という人称で登場する語り手は『エピタフ東京』と題された戯曲を執筆中の女性作家Kである。当然、恩田陸その人のようである部分と、そうでない部分と。さらに『100万回生きたねこ』よろしく幾世代もの記憶を持つ謎の「吸血鬼」というもう1人の語り部も登場し、東京という街のさまざまなデッサンが描かれたトレーシングペーパーをどんどん重ねていくような具合に言葉が重ねられ、重ねられ、それはいつしか時間を織り込んだ厚い半透明の地層となってゆく。時折、ある1枚がはがされ、破られ、その不均質な重なりから、また新しい街の姿が見え、隠れる。

 

ところでこの小説「一冊の本」に連載されてたのね。昔購読してたんだけどな。購読しとけばよかったよ〜。と思ったこともあり、7月から購読を再開してみたが、一番楽しみにしていた金井美恵子の「目白雑録」がなんと9月号で最終回。えーそうなの〜。めちゃくちゃ残念。また次シリーズ始まるんだよね! 金井美恵子のいない「一冊の本」、ほんと寂しいなあ……。

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川上未映子『きみは赤ちゃん』

きみは赤ちゃん

きみは赤ちゃん

 

仕事の必要があって読んだ本なんだけど、面白かった。作家の妊娠・出産エッセイ。というと、まあ、そういうジャンルの、あれですよ、という感じなのだけど、私がそもそもそういうジャンルをあまり読んでないので、この本がそういったジャンルの典型からどれだけ離れてるか分からないのですけど、そこは川上未映子ですからやはり純文学の趣きがあるんですね。細かく体や心の変化を綴るその視点や語り口も面白かったけど、やっぱりこう、普通は言語化がためらわれるような事象をうまいこと言語化してはるのがさすが作家だ素晴らしい。私として特に心打たれたのは「あべちゃん(川上未映子の夫であり作家の阿部和重)」が、医師のアドバイスにしたがって妊娠中の性生活を完璧に自粛していかなる取り乱しも見せなかったとき、女性でも妻でもない微妙な位置に置かれた戸惑いを表現したくだり。いやー、めっちゃいい。
しかし、この本を読んでると、川上さんは痛みの感覚が敏感な人なんですね、きっと。そういう人いるよな。マンガ『動物のお医者さん』に痛覚の鈍い菱沼さんという女性が出てきたけれど、その逆。で、無痛分娩を選択するわけですが、痛みに敏感な人は無痛分娩を選択するのは正解やと思うわ。しかし不運にも、なのか、体質的に、なのか陣痛は来ても子宮口が開かなかった川上さん。結局緊急帝王切開ということになり、無痛分娩の準備が無駄になってしまう。これ、本当に可哀想。長時間の陣痛後の緊急帝王切開、結局いちばんしんどいやん……。というわけで無痛分娩にも、それを選んだ川上さんにも全く異論はなく、しかれども結果的に帝王切開という川上さんには深い同情を寄せるけれども、この本で一番我慢ならなかったのは、ここに登場した無痛分娩を実践してる産院だよ! 出産前のセミナーみたいなとこで、自然分娩がいかに痛いかを力説し、それは史上最高に痛い、まさに人間に耐えられないような異常事態であるかのように得得と説明するくだりでめちゃくちゃ腹が立った。川上さんのせいではありませんが。そんなもん交通事故とか末期癌とかのほうが痛いに決まってるやろ。あたしの経験でいうと、分娩より歯痛の方が断然痛かったぞ。(あのときはほんまに麻酔が神かと思った)。無痛分娩を推進するのは至極結構ですけど、妊婦を脅したりして無用な女の分断のタネをつくらんとってくれ! ほんで出産を、ひいては出産する女を特別な位置に置こうとするのはやめてくれ。ほんまに冷静に文字を追えないぐらい腹立った。しかも痛覚って個人差あるしさ。痛みに強い人は別に自然分娩でええやろ。余計な準備もいらんわけやし。
ま、この他にも母乳問題とか、夫婦の育児分担問題とか、仕事の両立問題とか、「女性界」にありがちな、つくられた分断を引き起こすあれこれの諸相も見せてくれつつ、自分の経験の詳細なレポートを通じて世の妊婦や新米母に寄り添う視線濃厚な良書だと思う。単純に面白いしね。