うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

人類は進化している  峰浪りょう『ヒメゴト〜十九歳の制服〜』

いや〜ほんと、むちゃくちゃ面白かった。
fuyu77さんのブログで知った峰浪りょうさんのマンガ『ヒメゴト〜十九歳の制服〜』。

 

 
高校までの制服を脱ぎ、大学に入ったばかりの19歳。もう子どもでもないけれど、大人にもなりきれていない、変わる予感と不安に包まれたあの微妙で落ち着きのない年代の男女の、ひと夏の成長の軌跡と恋模様……なんて要約すると全く違った印象を与えちゃいかねませんけれど……というのも、物語の大部分を占めるのは、かなり濃厚な性描写だから。しかしだからこそ素晴らしい青春ラブストーリーだなーと感動してしまった。

主要人物は3人。いつも男みたいな格好をしてるショートカットの女の子・由樹(ユキ)、サラサラの黒髪をなびかせた清楚で天然系のお嬢様・未果子(ミカコ)、そして、アイドル級の美形男子・佳人(カイト)……なんて紹介すると、またまたベタベタの少女漫画みたいになってしまいますけど、カレカノジョらには、それぞれのコンプレックスに深く関連した裏の顔があり、その背景を解きほぐしつつ、3人の感情と行動が絡まり合いながら物語が進む。

「裏の顔」に変身するために、3人はそれぞれ違う「制服」をまとう。それらの制服は、3人がそれぞれ、なりたくても絶対になれない上に、年齢を重ねるごとにそこからますます遠ざかってしまう理想の自分を象徴していたりする。この裏の顔は3人の性行動と密接に関わっており、1巻ではそれぞれの表裏の顔と性事情、2巻以降では登場人物の相互介入によってそれらが徐々に変質していく様子が描かれる。というわけで、どの巻においても、それぞれのセックスやら自慰行為の様子が詳細に語られるわけですが、素晴らしいのは、それらの描写のすべてが「恋愛の成就」や「欲望の達成」という記号としてではなく、登場人物のセリフや行動と等価の心の機微の表現であり、コミュニケーションとして大きな意味を持っていることなんですよ。すごい量のセックス(および自慰)シーンが出てきて、それらすべてがものすごいきめ細かい心情描写になっている。本当に、記号化されたエロいだけのシーンが一切ない……って、すごくない? 今どきはそんなの普通なの? 人間って、進化してるなあ〜〜!!

で、結果、みごとに3人とも大人へのイニシエーションを果たして、本当にきれいなエンディングを迎えるんですよね。ありがちな暗い淵にはまることなく。タナトスに足をとられることなく。ま、そんなふうに書いちゃうと陳腐なんだけど、その説得力を生むための濃密な描写の積み重ねの迫力がものすごい。

というわけで、8巻まで読んで、いちばん正直なあたしの感想は「うらやましい」。いやー、いいね、濃密な青春!! しかし、19歳ってあんなに賢かったっけなあ。人間は進化してるんですね、本当に。そりゃあたしだって19歳っていったら色々あったけどさ。行動はあんなに濃密じゃないにしても、やっぱり自分に大切な何かを発見して「向こう側」に行く、という経験を確かにした。そのとき発見したものは、今でもすごく大切なものだったりする。19歳ごろって、そういうタイミングですよね。それを思い出せたのもよかった。
性描写以外に、大学生らしい青春描写にもキュンとする眩しいシーンが色々あるし、そこもいい。友達んちで鍋をつついたり、キャアキャアいいながら服を選んだり。

基本的にネタバレしないというスタンスなので、もう書くことないんだけど、主筋に関係がなさそうで、個人的に心に残ったことをいくつか。

主要登場人物はいずれもものすごく愛すべきキャラなのだけど、中でも未果子には惚れる。特に男に対するSっぽい言動が痛快で。もちろん、その背景には痛快なんて言ってられない深刻な事情があるんだけど、深刻な背景があるかないかはさておき、確実に男性嫌悪傾向を持つ私としてはこういうセリフ読むとやっぱり痛快だと思っちゃう。男性の方、ごめんなさい。

騙された男を、見下すのが、最高に、気持ちいい!

 男なんて、謝りながら女の股に頭埋めていればいいのよ。

あんの童貞ゴミカス男!!

まあ、男なんて、みんな害虫だけど

 かわいそうに、男はエロの奴隷だもんね

 


あと、脇役ながら物語を推進する上で大きな役割を果たす「翔」って男子がおりまして。こいつがほんっとにもう、人に勝手に幻想押しつけて、他人の人格を軽〜く無視するくせに自分の暴力性に無頓着で自分のことを善良と信じて疑わない典型的なアホ男なんだけど、その現実を、グイグイ周囲に突きつけられる様子も面白かった。大好きな由樹ちゃんにはあっさり忘れられるし〈え、あたし、翔のこと…完全に忘れてた〉、未果子ちゃんには幻想をバッサリ斬られるし〈どうしてそんな安易に、人に好きになってもらえると思っちゃうの? 何回かセックスしただけとか、長い間一緒にいただけで、女の子は惚れてくれたりはしないよ?〉……。きっつー。
でも「何回かセックスしただけとか、長い間一緒にいただけ」で結婚してる人たちって世間にけっこう多いんだよね、実際は。世の中の結婚の多くがうまくいってないのはそのせいだと思うよ? 結局、翔みたいに、他人の人格無視して欲望押しつけるのも、それを疑問なく受け入れるのも、なんだかんだいって世の中のスタンダードだったりするんだよな、ともチラッと思う。だから翔くんはよかった。早くに自分のアホさに気づくきっかけが得られて。人類の進化に遅れんなよ!

で、これはどうでもいいことだけど、佳人の愛人役でモモと柚香っていう2人の女が出てくるんだけど、この2人、可愛いしキレイだしまだアラサーなのに、佳人くんに心の中で、しょっちゅう「オバサン」って呼ばれてるの……。しくしく。あたしに関係ないけどなんか傷ついた。。。
でも、若い男(女)をお金で買うオバサン(オッサン)って、実際どんな心境なんだろ。正直、本当に分からない。相手に心の中で見下されているのは承知の上で、なおかつ欲望を発動できるというのは、どんなメンタリティがあれば可能なんだろうか。ここで語るべきでもない超今さらな疑問だけど、本当に本当にわからん。なんなのその意味不明な強靱さ。

ちょっと脇にそれたけど、なんしか濃密な読書体験と、超爽快なカタルシスがある傑作マンガ。
あたし、これ読んでる最中に現実世界で、人間関係のいいことと悪いことの両方のゴタゴタがあったんだけど、どっちも本気でどうでもよくなったもんな。よくできたフィクションの現実異化能力の素晴らしさに、もう感動しかない……。