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うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

リアルすぎる人生の痛み 橋口亮輔『恋人たち』

映画

[原作・脚本・監督]橋口亮輔 [出演]篠原篤、成嶋瞳子池田良安藤玉恵、黒田大輔、山中崇、内田慈、山中聡リリー・フランキー木野花光石研 140分

テアトル梅田で12月いっぱいの上映だった『恋人たち』を年の瀬ぎりぎりに観に行った。観に行けてよかった。すごい映画だった〜。

koibitotachi.com

通り魔殺人事件によって妻を失い、橋梁点検の仕事をしながら裁判のため奔走する男、アツシ。そりが合わない姑、自分に関心をもたない夫との平凡な暮しに突如現れた男に心が揺れ動く主婦、瞳子。親友への想いを胸に秘める同性愛者で、完璧主義のエリート弁護士、四ノ宮。不器用だがひたむきに日々を生きる3人の“恋人たち”が、もがき苦しみながらも、人と人とのつながりをとおして、ありふれた日常のかけがえのなさに気づく姿を、『ぐるりのこと。』『ハッシュ!』で知られる稀代の才能・橋口亮輔は、時折笑いをまじえながら繊細に丁寧に描きだす。
※公式サイトより

 

オムニバス、ではないのだけれど、それぞれ年齢も背景も異なる3人が主人公となり、互いにかすかなつながりを見せつつも、人生を交錯させることはないまま、三者三様の日常生活と、それぞれに背負っている傷、そこに、ふともたらされる外部からの干渉、そしてそれによる内面の変化がドキュメンタリーのような生々しい筆致で描かれる。

主役を演じる3人の俳優(篠原篤、成嶋瞳子池田良)は橋口亮輔監督のワークショップの参加者だそうで、キャリアはほぼなく、監督が書き下ろした脚本は俳優ありきの当て書きだそうだ。ワークショップで本人から出てきた言葉を実際に台詞にアレンジして使ったりもしているそうで、特に最初の2人は役名にそのまま俳優の名前が使われていることにも象徴されるように、役と俳優の密着度がきわめて高い。それ故の生々しい表現に目を見張るし、ひりひりとした痛みは本当に観客を刺す。そのリアリティのあまりの迫力に、脇を固めるリリー・フランキー木野花光石研といった疑いようのない巧い役者にさえ、嘘くささ、虚構くささがどうしようもなく漂ってしまうほどなのだ。

妻を理不尽に奪われたアツシの慟哭の痛々しさは改めて指摘するまでもない迫真のものだが、それに並ぶほど衝撃的だったのは、主婦・瞳子の、スクリーンやテレビで見たことのないレベルのリアルな「おばさんぶり」。ほんと、すごい。成嶋さんの出てるシーンは全部すごい。もう、これが映画になってることが奇跡だと思う。その2人に比べると印象が薄いと思われてそうな池田良さん演じるゲイの弁護士・四ノ宮の存在感も、私にはものすごく迫ってくるものがあった。自分の弱みを隠して世の中をうまく渡ってきた人だけが浮かべられるあの笑みのリアリティはすごいよ。

いや、それにしても成嶋さんのシーンのすごさがねー。
セックスシーンや放尿シーンといった比較的衝撃度の高いシーンは言うに及ばず、趣味で漫画を描いてたり、男と突然自転車に二人乗りしたり、雅子さまをうっとりと眺めたり、風呂掃除したり、そういう諸々のシーンがほんとうにね……。いいわ。


あと、アツシの先輩の黒田(黒田大輔)がもう、めちゃくちゃいいんですよ。めちゃくちゃいい役、というのもあるんですけど、演技が、そのたたずまいが、いやあ、ほんと、いいんですよねえ。予告編に黒田がバッチリ出ているので、何度も観てしまった。

2時間20分というまあまあ長尺の映画ですけど、劇場で観られてほんとうによかったと思った。感動的な主題歌(明星/Akeboshi〝Usual life〟)とともに川面をたゆたうエンディング、かすかな希望が射すエンディングがまたよかったです。余韻。