うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

高みをめざして地べたを這う壮絶な人生模様  『或る「小倉日記」伝』

或る「小倉日記」伝 (角川文庫)

或る「小倉日記」伝 (角川文庫)

 

 Kindleに入っていたものを再読して、うーんと唸った。松本清張の、本当に素晴らしい初期の短編集。

表題作の『或る「小倉日記」伝』は、森鴎外の失われた「小倉日記」をめぐる、ある男の物語。小児麻痺に冒され体の自由がきかず、窮乏のうちに生きた男が、その優秀な頭脳を生かして森鴎外の足跡をたどる「仕事」に生きがいを見いだして一心に取り組むが……。短いながらも人生のやるせなさを描き出してなんともいえない寂寥感あふれる読後感を導くこの作品は1953年の芥川賞受賞作だそう。

表題作もそうなんだけど、ここに収められた全6編の作品(『父系の指』『菊枕』『笛壺』『石の骨』『断碑』)には共通のモチーフがある。いずれの主人公も、考古学、史学、俳句など、ジャンルは異なるものの、学究なり芸術なりで高みをめざす志を持っているのだが、それぞれ心身に歪みを抱えており、それゆえにその志を果たせぬまま失意に沈む様子を描いているのだ。

そのすべてがあまりに壮絶であり、短編ながら人間ひとりの一生を語り尽くす時間軸を濃密に収めた素晴らしい作品ばかり。

初期の松本清張の情感を排した乾いた語り口がかえって生々しいリアリティを際立たせる。淡々と語られる行間から、色彩、匂い、音が立ちのぼる、決して美文ではないけれど、独特の色香が濃いその文章の読み心地に陶酔を禁じ得ない。

 

ところで今年に入って「読書メーター」に登録した。読んだあと感想を書くと、俄然読んだ内容について記憶に定着するなあ。ブログに書こうと思うとまとまったものを書こうと思いすぎるあまり書かずに済ませてしまうけど、読書メーターには読んだ本のレビューをとりあえず漏れずに書けそう。いつまで続くか分からんけど。

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