うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

既婚女子を脱ファッション化するカタログ通販という罠

おしゃれの話ふたたび。

 

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私は、ひとり娘を出産する前、8か月でお腹の中の子を亡くしたりしたので、都合2年ぐらいなんだかんだと妊娠したり、その合間だったり……という状態が続いたことがあった。32〜33歳ごろの話である。お腹が大きい間は妊婦用の服しか着られないし、子どもが生まれた後もしばらくは外出や買い物がままならないしで、妊娠〜産後の期間というのはすなわち「おしゃれのための服を買っていない」期間とイコールになりがちだ。あたしの場合もそうだった。そんなとき、知人の結婚式に招待された。産後1年ぐらいのタイミングだった。

「わー久々におしゃれしちゃお♡」

って思った、私。そのときの気持ちはっきり覚えているもん。わくわく。

でも、すぐにあたしは打ちのめされることになる。買うべき服がすっかりなくなっていたからだ。かつて仕事の合間によくのぞいていた店といえば、いわゆるセレクトショップ御三家(アローズ、ビームス、シップス)、そして勢いのあるショップがたくさん入ってた三ノ宮駅前のOPA、旧居留地・神戸大丸まわりでは、大好きだったフレンチブランド「クローディーピエルロ」、リブラブウエストの「アニエスベー」、ジーニアスギャラリーに出店したばかりの頃に「好みのものしかない!」と興奮した「J.CREW」、大丸の北側の一軒家風の二階建てショップのディスプレーも可愛かった「IENA」……。

それらの店は、いくつかはもうなくなったり移転したりしていたけれど、とりあえずセレクトショップ行けばなんか可愛い服あるし! と勇んでショップを巡ったが、なんというか、買うものがない。という以前に、手に取りたくなるものがない。というより、何を手に取ればいいのか分からない。以前は「可愛い」「可愛い」って高頻度で言ってたはずの同じ売り場が、すっかりよそよそしくなっている。なんか分からないけど、どの服も細すぎるし、呼び方がわかんないアイテムばかり。なかなか試着するものが見つからず、無理矢理着ても似合ってるのか似合ってないのかすら分からない。これ、何に合わせたらいいの? あたしどうすればいいの?

アラサーという山を越える大事な過渡期にファッションに無頓着でいることがこんなに危険なことだったとは。知らないうちにトレンドがすっかり変わっていて、私は完全に文脈から取り残されていた。というより、20代の女は、何も考えなくてもトレンドの方から寄ってくる。みんなが自分に向かってマーケティングを打ってくる。あたしはそこから好みのものをひょいと取り上げれていればよかった。よかったはずなのに。

以前買ってた店で全敗し、百貨店に逃げた。が、「ヤング」から外れたあたしの入るべき次なるカテゴリーが分からなかった。「キャリア」なのか「ミッシー」なのか。ていうか、そもそも「ミッシー」ってなに? 最終的に、それまで足を踏み入れたこともなかったキャリア系のブランドでむやみにメリハリのきいたライトグレーのパンツスーツを買って(仕事にも着回せるし!)、中にゴールドラメのノースリブラウスと、ちょっと派手めなネックレスをつけて結婚式に臨むということで落ち着いたのだけど、私はホントにこれを着たいのか、似合っているのか、などと考える余裕は全くなくなっていて、「これぐらいが無難だろうか」「恥ずかしくないだろうか」「これぐらいの値段なら買えるか」というネガティブな発想しか残っていなかった。完全に憔悴し、疲労困憊していたから買い物そのものも全く楽しくなかったし、買った服もやっぱり気に入ってはおらず、仕事に着回す、なんてことをほとんどしないまま1年ぐらいでサイズアウトしてしまった。

そのようにうちひしがれた妙齢女子の耳元で甘く囁く者ありき。「通販」ですよ。カタログ通販。「フェリシモ」「ベルーナ」「ベルメゾン」……。
出産というブランクを経て、おしゃれ市場で生きる気力を失った30代にカタログ通販はとても優しい。「トレンドを意識しつつ、体型もカバー!」「らくらくストレッチで美脚をキープ!」「プチプライスでしっかりおしゃれ」「3wayで着こなせる」「着るだけでスタイルアップ」「何枚あっても重宝するベーシックアイテム」なんて、都合のよすぎる惹句をどんどん囁く、というより叫んでくるものだから、そんなにいうならちょっと見てみようじゃないのよ、とカタログをめくると、あら、ホント。お安いのにとってもおしゃれだわ〜♡ 今どきっぽいし、体型カバーの工夫もされてるし、これぞあたしたちの求めてたものよね? なんて思ったが最後、ワードローブがどんどん通販に侵食されていく。フォーマルから下着まで、何でも売ってるんだもん、通販って。そうなるとリアル店舗で買うスキルがますます低下してゆき、やがて全身通販の人になる。

「気になるおしりをカバーしてくれる」チュニックに、「足をほっそり見せてくれて楽ちんな」ストレッチパンツを合わせて、「らくらく歩けてスタイルアップ」なインソールパンプスなんかを履いた日には、もう誰が誰だか見分けのつかない「いわゆる主婦」「いわゆるママ」のできあがり。揃いも揃って真っ黒のリクルートスーツに身を包んだ就活生とおんなじ。合コンで男受けを狙う白ワンピ女とおんなじ。カタログ通販は、30代既婚女性のための没個性のカムフラージュルックの供給源なんである。それを見て、誰も「おしりが引き締まったほっそりした足のスタイルのいい女性だな」なんて思いませんよ。「見分けつかん」。以上。おわり。

しかし、こういうのは一種の「年甲斐のあり方」としては正しい。年相応。体型も崩れるでしょうし、うまくカバーする方向で。子どもの教育にお金もかかるし、お安い方向で。何かと忙しいし、楽ちんな方向で。人妻なんだし、目立たない方向で……。

いえ、いいんです。通販で服を買うのが悪いわけがない。「今まで着なかったこういう服にチャレンジしたい」とか「なんしか実用的にこれが必要」とか「おしゃれになど興味はないから奇異な目で見られなければいい」などといった目的を持って服を買うのに、こんなによい手段ないですよ。なんの問題もない。でも、一般人とはかけ離れた体型のモデルがかっこよく着こなすイメージビジュアルを使って、もしかするとちょっとはあるかもしれない程度の効果効用を強く語る一方で、実際の着用シーンで印象を最も大きく左右するシルエットや生地の質感は茫洋とさせたままケムにまくカタログ通販というシステムは、少なくとも「おしゃれをする」という用途には向かない。なのに「おしゃれしたい」という欲望をかなえるかのように近寄ってきて、いつの間にやらおしゃれ欲そのものを解脱させていく。そんな通販カタログの恐ろしさを警告したくなったのですよ! その先におしゃれはないから!! 「年相応」という、年齢スケールに妙に従順な砂漠が広がっているだけなのよ!!!

……って何がいいたいかよく分からなくなってきたけど、なんしか、おしゃれ心が瀕死だった十数年前の産後のあたしは、うっかりカタログ通販に洗脳されかけていた。しかし、やっぱり「欠点をカバーする」なんていうネガティブな動機じゃなくて、「好き!」「可愛い!」「楽しい!」っていうポジティブな気持ちでおしゃれしたかったんだよね、まだまだ。

で、おしゃれの文脈が読めなくなった衝撃からヨロヨロと立ち上がり、「今どきの通販はおしゃれよね」という幻想を信じたくなる甘い誘惑をふりほどき、「あたしに一番似合うのはボディコンワンレンやし」といった過去にすがる系の退路も断ち、満身創痍で年甲斐のない服を失敗しながら着て、本当に好きな服を探していく方向にシフトチェンジして、年甲斐のない大人となり、今に至りぬ。ということをなんとなく振り返りたかったのであります。

結果、ええ大人になった今でも物欲まみれのアホです。若いときでも着なかったたぐいの変な服もいっぱい買ってまう。でもいいねん。好きな服着てると気分がいいもん。だからやっぱりこれからも年甲斐のない服、着るし、そのために走るから。

 



アドバンスド、アドバンスド!!!

advancedstyle-movie.com



これはいい本。泣ける。ティム・ガン愛してる!

誰でも美しくなれる10の法則 全米No.1ファッションアドバイザーが教える

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