うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

死を抱く生。北品川の原美術館

東京出張で仕事が早く終わり、品川から新幹線に乗る前に、駅から歩いて15分ほどのところにある「原美術館」に寄った。現代美術の専門美術館。初めて。

品川区北品川。まちの向こうに林立する高層ビルを望みつつも、バス道を一本入ればそこは閑静で住宅街で、星霜を経た……といえば大げさかもしれないけれど、ある程度の厚みを持つ時間の洗礼を受けた住宅街だけが持つ、何世代かにわたる人々の細々とした生活の記憶の層と、それに張りついたぬぐいがたい陰のようなものが沈殿した空気が充満しているのを感じる。



通りの両サイドに建ち並ぶ住宅のエントランスのどこか懐かしい意匠、植栽、ガレージに並んでこちらをにらむ車、などをぼんやり眺めながら歩いていると、左手に長い白壁が現れる。もとは1938年竣工の私邸だったというのだれど、たいへん贅沢なものである。設計は東京国立美術館本館や銀座の和光を手がけた渡辺仁。

 

f:id:moving-too-much:20161106093959j:plain

 

(公式サイト)→ Hara Museum Web


現在の特別展は篠山紀信の「快楽の館」である。
いわずとしれたヌードの巨匠、篠山紀信氏の原美術館だけで開催される写真展で、展示されている写真はすべて原美術館の敷地内で撮影されたもの。ヌード写真が中心で、30人以上のモデルを使ったのだとか。壇蜜もいれば、ロリ系、いわゆるグラビア系、スポーツ系、舞踏系、はたまた武闘系(?)、筋肉のつき方も表情もポーズもさまざまなヌードの女たちの姿が百花繚乱の様相で各展示室を彩る。期待していたよりもすごく面白かった。

(展示詳細)→ http://www.art-it.asia/u/HaraMuseum/IoXcFNSpLejTadmKb86i/



受付で受け取った案内には、こんな言葉が掲げられている。
篠山紀信ってこんなおしゃれな文章を書きはる人なんですね。

==================

美術館は作品の死体置き場、
死臭充満する館に日々裸の美女が集う。

美女たちの乱舞、徘徊、錯乱、歓喜、狂乱、耽溺……
あらゆる快楽がこの館でくりひろげられる。

幻蝶が舞う夢と陶酔の館。
この祝祭は初秋の夜にはじまり、歳明け、厳冬の朝に散る。

たった4ヶ月余の一度だけの狂宴。

お見逃し無く。
2016年   篠山紀信

==================

写真展示もさることながら、建物がものすごくいい。


美術館にするにあたってどれほどの改造が施されたのかは分からないけど、なまめかしい曲線を多用したデザインは、ときに展示されている写真よりもエロティックで、なんなら館全体が寝ている獣のようなのだ。階段をのぼり、くだり、廊下を奥へ進み、窓から庭を眺め、そうしていることがまるで獣の腹の中を歩いているかのようで、ふと足元の床が脈動している錯覚に襲われる。その現場で撮った写真を、まさにその現場に飾る展示とあって、こうしてみると篠山氏のいうように、展示されている作品が「確かに死んでいる」ことが際立つ。そして、建物だけが生きている。美しい亡骸を抱えて。

半円形に張り出したサンルームの大きな窓枠には、美しくアールのかかったぽってりとしたガラスが嵌められ、古いピアノが日だまりにたたずんでいる。物見櫓のような屋根裏の小スペースに上がる階段は、毛の水滴をふるう猛獣の背中のような不思議な曲線を描く。館の中には特別展の作品以外にも、奈良美智森村泰昌、ジャン=ピエール レイノーなどの常設作品は、展示スペースと一体化したかたちで展示されていて、これらもよい雰囲気。

館内は写真撮影禁止につき、庭の写真をいくつか。庭にも「そこで撮影した」紀信氏の作品が展示されている。

f:id:moving-too-much:20090118044907j:plain

f:id:moving-too-much:20090118060445j:plain

f:id:moving-too-much:20090118060103j:plain

f:id:moving-too-much:20090118060401j:plain


半円形の建物に過去かこまれた中庭に面してカフェもあり、このテラスも素敵だったが、こちらも残念ながら撮影禁止であった。

ちょっとした時空の歪みを体験できるとてもいい場所だなあと。また寄りたい。

保存

保存

保存