うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

グロテスクで愛おしい郊外小説『ふがいない僕は空を見た』

以前「GingerL」でたまたま読んだ短編『水曜の夜のサバラン』が大変面白くて、ずっと気になっていたのに読んでいなかった窪美澄さん。初めて単行本を読む。いやー大変面白かったですね。


視点人物を変えて綴られる5編の連作小説。私は相互に関連のない短編集だと思って読み始め、冒頭の「ミクマリ」がものすごく面白くて唸ったのだが、これがデビュー作とは。2編目の「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」の途中で「あ、連作か」と気づいてものすごく引き込まれたけれど、お話がハードで読んでいて辛く、途中で何度も休憩を入れなければ読み進めることができなかった。世の中から疎外され、疎外がスタンダードになっているがゆえに感情の閾値が異常に高い人の話。


1、2編は生々しい手触りが生々しすぎる異様さが際立っていて読者の(つか、あたしの)心を削るが、3編目以降はいわゆる小説世界の地平線が広がり、読者として作品に対峙する視点も定まり、この世界への向き合い方が安定してきてほっと一息つきつつ一気に読む。登場人物にいちいち体温や体臭や地声や肌質の違いを感じてしまうほどの固有の存在感があり、人々を枠に押し込めて分断するあらゆるタイプ分けを強烈に拒んでいるところが素晴らしい。だれもがどこかグロテスクで、何かを嫌ったり憎んだりしながらみっともないことをせずにいられないのに、弱くて強くて可愛らしいのが素晴らしい。


そして、過激な、というよりものすごく具体性に富んだ性描写、というのが本書の、そして著者の大きな特徴なのだけど、あくまでゲスくなく知的。形而下的に知的。男性は実用書として読んでいただいたらどうでしょうかね。健全に普通に性欲を持つ女子高生が出てくるところもさすがだと思う。

ところで、最後の「花粉・受粉」に出てくる助産院の助手のみっちゃんは、「東京タラレバ娘」のマミちゃんみたいやな。この子視点の話も読みたいわ。でも七菜ちゃんのお母さんの話も読みたいし、あくつちゃんの話も読みたいし、あんずちゃんのご近所の木村さんの話も読みたい。全部絶対に面白いはずや。郊外的な、たいへんに郊外的ないろいろなものがふきだまっているこの世界観がものすごく切なくて愛おしい。傑作です。

 

 

ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)

ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)