読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

絶望の先の希望 窪美澄『晴天の迷いクジラ』

最近、続けて窪美澄を読んだ。どれもいいです。これはデビュー2作目なのかな?

晴天の迷いクジラ (新潮文庫)

晴天の迷いクジラ (新潮文庫)

 

 

機能不全家族で育った」ということ以外は、年齢も性格も共通点のなさそうな3人の男女がひょんなことから行動をともにし、それを契機にそれぞれが直面していた「死」から後ずさり、「生」へと引き戻される物語。無理矢理に読者の感覚のやわらかいところに分け入って、登場人物の主観をぐいぐい植え付けるような生々しい描写が大変しんどいけれど素晴らしい。

1人で留守番させられる幼児の不安に満ちた心情や、密室育児で、すわ虐待に走らんとする母親の心理など、同調しすぎるとこちらの心身がえぐられて疲れる。だれもがみな、自分以外の誰かをコントロールしたり支配したり利用したりせず、自分の生きたいように生きられたらこんなによいことはないけれど、近しい関係の誰かに、相手の人格や事情を無視してほとばしる愛情(という名の欲望)を注がずにはいられない人は実際には珍しくなく、そのせいで本来可能性に満ちた人の未来が狭まり、どんどん不幸になっていくさまがやりきれない。

主要登場人物の3人の中では、16歳の正子の行く末が一番気がかりだが、まあ高校を卒業すれば親から物理的に離れられる可能性は高く、そこに期待が持てる感じにはなっているので、わたしとしてはそれを信じるしかない。とはいえ10代の2年は長いし、人はそうそう変わらないから、なかなかに茨の道であろう。このおはなしを読んでしまった以上、私ももう彼女のおばさんみたいな気分になっているので、本当にこの先幸せになってほしいし、これからも何度も彼女のことを考えてしまうだろう。

48歳の野乃花については、とても辛い経験をしているとはいえ、これまでの行動の何もどこも間違ってないとしかいいようがなく、特に、18歳にして耐えがたい状況から何もかも捨てて逃げたことは大英断だというほかない。あのまま我慢していたら、もっと取り返しのつかない破滅的な未来を引き寄せたことはほぼ間違いないのだから。考え得る最も素晴らしい現在を生きていることをもっと強く自覚してほしい。ま、そうはいっても、あんな社長の下で働くのは絶対に嫌ですけどね……。

由人は、どうなんかな。ださいカッコしててもミカちゃんというおしゃれ女子に見初められるほど素質のあるカラダしてるわけだから、早くその自分の長所を自覚して利用してけばいいんじゃないすかね。がんばって。ま、大丈夫っしょ。

それにしても、好むと好まざるに関わらず、子どもの生殺与奪権を握ってしまう親という立場の恐ろしさが身に染みる。なにものかを大事にいつくしむ「愛」とは素晴らしいものだけど、執着や支配欲と混同しやすく、これほど「混ぜるな危険」な感情もありませんからね。

デビュー作の『ふがいない僕は空を見る』にしろ、この次の『アニバーサリー』にしろ、愛があふれるキラキラと眩しい世界より、愛など幻想に過ぎないという絶望の地平から始める人間関係の方が、ともすれば希望があるということを、窪美澄は繰り返し言っているようにも思う。

あ、海老くん好きです。
「クジラ」という大道具もすごいよかったな〜。