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うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

『お嬢さん』の点対称、線対称、非対称

映画

わたしの身近にいる人の中で格段に妖艶でエロ戦闘力の高い美女が、「よだれが垂れるほどエロかった」「侍女がほしい。侍女が……侍女……」などというものですから、ぜひにも観に行かねばいけないと思っていた韓国映画『お嬢さん』。


なんだかんだで観に行くきっかけを失っているうちにレイトショーだけになっていたので、先日、21時20分からの回に滑り込みました。いやー面白かったですね。
全盛期の松嶋菜々子が演じた桜子(やまとなでしこ)をなよやかにしたみたいな雰囲気のお嬢さんと、石野真子の若い頃みたいに未開発のアイドル感のある侍女。この2人のキャスティングが絶妙。

でもあたし、これが2時間47分もある長尺映画だって知らなかったからさ。
開始時間が開始時間なので映画の前にビールなどもある程度飲んでるじゃないですか。さらに劇場でも生ビールを買って持ち込んでしまったもので、2時間ぐらい経過した時点で激しい尿意を催しまして、後半はずっと、脚を激しく組み直したり、前屈したり、座席でもぞもぞしながら耐えるはめになってしまった。リアル拷問。しかし、後方座席の客から見れば、スクリーンにあふれるエロスに我慢ならなくなって、なにやらヤバいことになっている変態女に見えたかもしれませんね……。さすが自分、いい仕事するなあと感心しました。


気を取り直して、どんな映画かと申しますと、舞台は日本が統治する1930年代の朝鮮。日本人華族の令嬢と、その叔父が暮らす豪邸に、メイドとして送り込まれた女性と、伯爵を騙って潜り込む詐欺師が四つ巴となり、やがて愛憎入り交じり……。原作は英国人ミステリ作家、サラ・ウオーターズの『荊の城』。19世紀半ばのロンドンを舞台にした原作からの換骨奪胎も鮮やかな異色のエロティック・ミステリーでございます!


とはいえ、事前情報ゼロからストーリーの要諦をつかむのは結構難しい。日本語カタコトだしさ。
けれども、3部構成の3部ごとにきっちりとどんでん返しが用意されているので、たいがいなうっかりさんでもドキドキハラハラとサプライズは十分に楽しめる。エロティックな描写もすごく美しい。でもなんというか、最もぐっとくるのは、映画全体として「男イラネ〜」と、バッサーと男性を切り捨てる爽快感なんですよね。

以下なんとなくネタバレがあるようなないような。


画として最も印象に残ったのは、女同士の絡みのシーン。
前半ではいわゆるシックスティナインの体位で女性同士が絡む様子を俯瞰するシーンが、後半では、ベッドの上で立て膝でくちづけを交わす姿を真横から撮るシーンが出てくるのですが、前者は美しい点対称、後者は美しい線対称であることが強く強く印象に残りました。ま、いってみれば当たり前の話なのだけど、同性同士のセックスシーンならではの対称性の美しさに改めてハッとしたといいいますか。

普段スクリーンで見る男女のセックスシーンというと、絵面としても関係性としても往々にして非対称で、見た目にも本質にも上下関係があるのが当たり前だったりするので、なんかそこにピュアな美を見たような気分になったのね。

もちろん、そこは意識してそう撮られているのだと思う。映画の構造を際立たせるために。


そもそも、4人の主要登場人物のポジションが物語の進行にともなってカチカチと変化する様子が、ボードゲームを見ているような対称性があって面白いのです。

1部では、屋敷の主である「叔父と姪(お嬢さん)」と、それを利用しようとする「詐欺師と手下(侍女)」という、男を上位とした男女2組が対になっているのだけど、2部、3部で位相が転換し、最後には、「愛し合う女ふたり」と「自滅する男ふたり」として終わる。女を搾取することで成立していた「男の幻想世界」は、その論理に与しないことを決意した女によって滅ぼされ、取り残された男たちは、自分たちだけで新しい世界をつくろうとせず、痛めつけ合って滅びるというね……。


女たちは睦み合い、男たちは嗜虐する。
このラストには笑ってしまいました。

いやもちろん、わたしだって、男が何がなんでも憎いわけではないけれど、こういう構図は今だって、いたるところにあふれているからさ。相手が女であれ男であれ、一方的に利用しつくそうとし、そこからの離脱を暴力で抑えられるとする考えは長期的に見て何ももたらさないし、生み出さない。利用する側の自我と誤った権力意識を肥大させるだけじゃないの、と。


支配・被支配が横溢する現実でも、このように鮮やかなパラダイムチェンジが各所で起きて、新しい世界や愛がたくさん生まれてくることを願います。

写真は対称性の美しいヴィトンのウインドー。2013年のもの。ヴィトンのウインドーはいつもいいけど、この「虫シリーズ」はほんまに最高やった。

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