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うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

法と現実が交差するジャンクション — 初めての裁判傍聴記

裁判所にまつわる原稿を1本書かないといけないことになり、先日初めて裁判を傍聴した。

1件目は覚せい剤取締法違反で、2件目は常習累犯窃盗であった。4人座ればいっぱいになるベンチ式腰掛けが6脚。司法修習生なのか学生なのか、スーツを堅苦しく着た若い男女の一群、ツギだらけの布バッグを提げたくたびれたおじいさん、メモを持った記者風の男性などで傍聴席はほぼ満席。わたしの隣に座ったのは、あからさまに私のことをジロジロと見てくる年配のご婦人だったのだが、後から考えればこの人は被告人の身内だったのかもしれない。

検察官は2人いて、どちらも男性。一人はやたらと腰が低い感じで、もう一人は渋面をつくったまま微動だにしない。整った顔立ちの青年だったが、あのまま眉間にシワが定着してしまいそうだ。書記官は女性。裁判官は50代と思しき柔和な男性だった。この2人は黒いローブをまとっている。

一件目は覚せい剤取締法違反(使用、所持)の女性。30代か。「BABYDOLL」のカジュアルジャケット、スウェットパンツにつっかけサンダル、乱れた感じの茶髪のロングヘア。完全すっぴんのようだが拘留中は化粧はできないのだろうか、しないのだろうか。刑務官2人に付き添われ、手錠で拘束された状態で法廷に入ってくる姿をリアルで見ると、やはりギョッとした。罪を犯し、公的に拘束されている人間の姿ってやっぱり普通には見かけないから。

弁護人は女性。もしこの法廷をドラマ化するなら松たか子あたりがハマリ役だろう。派手ではないけどさっぱりときれいなお顔立ちで、見るからに賢そう。グレーのスカートのスーツの下は白いプルオーバー型のブラウス。堅い印象に似合わぬ巨乳だ。化粧を濃くして服を変えたらかなりセクシーになりそうだ。

裁判長が入ってきて開廷を宣言。傍聴人も立ち上がって一礼する。裁判長が促し、被告人の拘束が解かれる。

この法廷は「判決」につき予定時間は5分。本来ならば判決文を読み上げるだけなのだろうが、この日は検察から追加で証拠が出されたので少し時間が延びた。検察官の声がもごもごしていてく聞きとれないが、前回出した証拠の修正?か何かだそうだ。とはいえ判決に影響するようなものではないらしく、裁判官が少し証拠を検証しただけで判決文の発表に移った。

被告は証言台の前に立つ。ふと見ると被告人は涙ぐんでいるではないか。
本来ならば判事がそのまま判決文を読み上げるのだろうが、この日は新たな証拠調べがあった関係で、被告人に向けて「最後に言いたいことはないか? 前回話したことに間違いはないか」という問いかけがなされた。そして、前回の法廷で彼女が語ったとされる言葉が読み上げられた。「第二の人生をやり直す覚悟であり、子どももいることから、寛大な判決をお願いします」云々。
彼女には子どもがいるのだ。今どこでどうしているのだろう。

判決は実刑で懲役2年。執行猶予中、保護観察下の再犯だったのだ。「もう覚醒剤とは手を切ってほしいと思います」と、被告人の目を見ながらゆっくり語る裁判官に「はい」と答える被告人。

狭い法廷だ。うっかりしていると被告人と目が合う。席がなくて行きがかり上、一番前の席に座ってしまった。「見世物でも楽しんでる気分か」と言われているようで身がすくむ。

2人目の被告人は累犯窃盗。自転車のカゴから人のバッグを、2度盗んだらしい。みすぼらしく禿げていて人相が悪く滑舌の悪い、上下作業着のご老人である。こちらの判決も懲役2年。拘留されていた60日は刑期に算入されるらしい。この件の弁護人は、髪が四方八方に飛び散らかっている若い男性で、せいぜい30歳ぐらいに見えた。

法廷は厳粛であった。すべての手順が厳格に守られて粛々と進行していく。被告人のくたびれたスウェットパンツやみすぼらしい作業着はその重厚感と破調をきたす。しかし裁かれるためにこの場に立つ人たちは、圧倒的多数が彼彼女のように場と破調をきたす人たちなのだ。そして、彼や彼女に向かって、優しく思いやりに満ちた表情を浮かべ「二度と間違いを起こさないで下さい」と語りかけるのは、高等教育を受け、司法試験の難関をくぐってきたエリートである。重厚な空気に包まれた非対称。静かな違和感がぽっかりと浮かぶ。

本当に第二の人生とやらはあるのだろうか。自分が被告人としてあの場に立てば何が見えるのだろうか。ここに至るまでに何があり、この先に何があるのか。法廷は静かで重厚な異次元のジャンクションであった。また何度か行くつもり。

 

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