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うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

ファッションをアートに変える信念と執念『メットガラ ドレスをまとった美術館』

[監督アンドリュー・ロッシ 出演:アナ・ウィンター、ウォン・カーウァイ、アンドリュー・ボルトン ほかセレブ多数 2016年アメリカ 91分]

 

フラッシュの閃光とシャッター音の洪水のなか、豪華なドレスをまとってレッドカーペットに続々と登場するセレブたち……。メトロポリタン美術館(メット)のファッション部門の特別展のオープニングパーティー「メットガラ」の超きらびやかな光景とともに映画は幕を開ける。

 

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やがて時間がさかのぼり、カメラは、メットの特別展『鏡の中の中国』の企画から開幕までのいきさつを追う。この映画は、キラッキラのファッション・ドキュメンタリーであると同時に、さまざまな利害を調整しながらプロジェクトを動かし、大規模な企画を着地させるまでのお仕事ドキュメンタリーでもあるのである。


メトロポリタン美術館の地下には圧倒的な物量を誇る服飾部門のアーカイブがある。映画の中心人物は、その専門キュレーターであり本特別展の責任者であるアンドリュー・ボルトン(イケメン!)。そして、もう一人のキーパーソンが、同美術館服飾部門の顧問でありヴォーグの名物編集長であるアナ・ウインター。ここに、さまざまなデザイナーやクリエイターが絡みながら、企画が着々と形になっていく様子が描かれる。

ファッション・ドキュメンタリーの楽しみは、なんといっても画面にあふれる華やかな美しさをめいっぱい浴び、高揚感と前向きな気分を得られること。本作でも十分それを満喫させてもらったたのだけど、この映画は「プロジェクトもの」として見てもとても面白い。特に『プラダを着た悪魔』によって「冷血漢の鬼編集長」のイメージがぺったりと張りついたアナ・ウインターの、超人、変人として突出した部分以外の「ふつうの〝仕事できる人〟の顔」が見えたことがしみじみと胸に迫った。

「ファッションはアートか否か」という問いに対してはさまざまな答えがあり得るし、まずもって「アート/ファッションをどう定義するか」という難問があり、わたしなどがそう簡単に語ることはできませんけども、少なくとも、この映画の核人物であるアンドリューさんとアナさんは、両者に何らかの定義をした上で「ファッションは実用物を超えたアートとして次代に受け継がれるべきものである」という信念を持っている。しかし、実際のところ、まだファッションは十分に公共的な意味を持ちうるアートとして社会に認知されているとはいえず、より普遍的な意義を高めるためには、ファッションの側から「アートとして魅せる手法」の洗練と、「アートとして扱うための資金」の調達という両面からのアプローチが必要だ。その最前線で、前者を担うのがアンドリュー、後者を担うのがアナなのである。

ガラ・パーティーは企画展の「にぎやかし」などではなく、ファッションをアートとして存続させるために欠かせない資金を集めるためのビジネスであり、企画展と対等な両輪をなすものだ。その資金源となるのが、日ごろファッションと共存共栄しているセレブたち。チケット代は1人200万円だか300万円だかの高額で、総額約15億円だかがこの一夜で集まるという。


テンポラリーなファッションから、パーマネントなアートへ。エネルギーをダイナミックに環流させ、消費から保存へと価値の変換を促す最前線がここメットガラ、というわけだ。

パーティーに誰を呼ぶか、そして、呼ばれたすべての客をどう満足させ、対外的にどうプロモートするかーー。大胆さと繊細さが同時に要求される一連のマネジメントの完遂がアナ・ウインターのミッション。招待客すべての席次を何度も何度も検討し直し、細部をしつこくシミュレーションし、部下に細かく指示を出す。その緻密さと執念深さに彼女の執務能力の本質を見る。その上で自分自身の価値を冷静に見きわめ、徹底的に自己プロデュースする強さ!

彼女はもう60歳を越えているのだけど、いったい誰が後継するのでしょうね。

ラストではヴォーグのエディトリアルデザイナーがMacの画面を見ながら、「リアーナ最高! これで表紙は決まりだ!」とか「このざくろの写真いかしてる! アナも絶対気に入るぜ!」とか叫びながらめちゃくちゃハイテンションで誌面をレイアウトして、鬼編集長のアナ・ウインターにプレゼンしてほめられてヒャッハー!ってなるシーンがあるんだけど、このエンディングにも仕事愛がにじんでいてよかった。あんな陽気なエディトリアルデザイナー見たことないけどな。


あと、これって『ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ』の続編みたいだなーと思って、個人的にはそれが一番胸アツだった。ヴリーランドはかつてヴォーグの編集長を務め、メットの服飾部門を創始した人?だったと思うので、アンドリューとアナはダイアナの正統なる後継者なんですよね、実際。
件の映画は、彼女が活躍した時代のリアルタイムの映像がほとんど残っていないせいで、ドキュメンタリーとはいえ、彼女が編集したファッション誌の誌面、周辺の人々へのインタビュー、古い写真などをつなぎ合わせるしかなく、ともすれば退屈な資料映画になってしまっても仕方ないぐらいの材料不足にもかかわらず「ファッションで自由になれ!」という熱いメッセージが全編にあふれていて、本当によかった。ダイアナはアナのような端正な美人じゃなくて、かなり個性的なお顔なのだけど、その彼女の顔が、映画を見終わるころには、この世のものとは思えぬぐらい美しく見えてくるのよ。
ああ、もう一回見よ。

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あと、ラスト近くに、ストリートフォトグラファーのビル・カニンガムさんもちょっとだけ登場してましたね。彼を主役に据えた『ビルカニンガム&ニューヨーク』も、それはそれはキュートなファッション・ドキュメンタリーだった。ビルは2016年に亡くなっているから、2015年と思しきこの登場シーンの姿は本当に晩年ですね。かなりお年を召されたおじいちゃんなのに、表情はまるで少年のよう。いつまでもこんなキラキラした視線が世界のファッションを包んでいますように。

 

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