うだうだと考える日記

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『シェイプ・オブ・ウォーター』はマイケル・シャノンに尽きる

監督・脚本:ギレルモ・デル・トロ出演:サリー・ホーキンスマイケル・シャノンリチャード・ジェンキンスダグ・ジョーンズ、マイケル・スターバーグ、オクタヴィア・スペンサー2017年アメリカ 124分

 

 『シェイプ・オブ・ウォーター』を初日に見た。  

ネタバレある感じ。

 

www.foxmovies-jp.com 

海の中か、はたまた夢の中か……。アイマスクをつけた女性がゆらゆらと揺れながら眠る童話のような冒頭シーンは幻想的で大変美しい。しかし、鑑賞後の私の感想は「これは映像美を極めたコメディやな」で、見ている間もほぼ吉本新喜劇を見ている感覚だったのだけど、あとで感想をあれこれ検索したら、ほぼ「美しいファンタジー」「すごくよい」と絶賛している声が多く、うう、私、なにかファンタジーを見るための重大なリテラシーを欠損しているのかしらとすごく不安になって凹んだ。

いや、本当に映像はめちゃくちゃきれいなんですけどね。

 

しかし、あの、マイケル・シャノン演じるアメリカン・マッチョの軍人、ストリックランドを見よ。彼は終始目がイッちゃったヤバイ人で、仕事中に電流か何かが流れる棍棒を持っていて、気に入らない奴には躊躇なくリンチをかます。背は190cm、妻はブロンド、車はキャデラック、セックスは正常位。トイレでペニスに手を添えることなく小便できるという特技を持つ無敵の男だ。そしてトイレの後は手を洗わない! 男・た・る・も・の・小・便・ご・と・き・で・手・な・ど・洗・わ・な・い! というこの心意気。彼が魚人をお気に入りの棍棒でいたぶる場面で「ドリルこんのかーい、くんのかい、こんのかーい、毛細血管いっぱい集まってるとこ、わきー」という絶叫ギャグが脳裏をよぎらなかった関西人はいないだろう。いないよね? いる? 完全にコメディやん。

 

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ヒロイン、イライザ(サリー・ホーキンス)の首には古い傷痕があり、それ故かどうかは定かでないものの、彼女は声を出すことができない。朝決まった時間に起き、ゆったりと浴槽に身を横たえて自慰を楽しみ、卵をゆで、サンドイッチを隣人に届け、バスに乗り、とある政府系の研究所で掃除婦として勤勉に働く。判で押したようなルーティーンの毎日を静かに繰り返す。

彼女は声を出すことこそできないが、お隣に暮らすおじさま画家の友人、ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)や、超能力者のようにイライザの内面を即座に察してくれる心優しい同僚、ゼルダオクタヴィア・スペンサー)とは、目線や身振り、そして手話で豊かなコミュニケーションを交わすことができる。

そんな彼女の日常に変化が訪れるのは、奇妙な生き物が彼女の職場である研究所に持ち込まれたことがきっかけだった。ソ連との国家間競争に勝つための重要な要素であるらしきその生物をイライザは垣間見て、心惹かれてしまい……。

 

……と、書いてみると、やっぱりすごい美しいファンタジーぽいな。でも、私が本作をコメディと捉えた大きな要因は、全体として登場人物がストーリーをドライブさせるパーツとして粛々とハッピーエンドに向かっているように見えたこと。登場人物はみな、ところどこにギャグを織り込みながら大団円へむけて「お約束」を果たしていく。その際、感情の機微などはそれほど重要視されていないように見えた。

まずもってヒロインが半魚人に惹かれる理由がよくわからないし、声が出なくなった経緯もよくわからない。友人との関係性もよくからないし、ゼルダとなぜそこまで親友として信頼関係が構築できたのかもわからない。途中で味方に転ぶホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)が、なぜそこまでヒロインに肩入れするのかもわからない。

観客としては水中で抱き合うヒロインと半魚人という美しいポスターを見ているわけで、映画館に入る前からこの二人が恋に落ちることは分かっているのだが、お相手はなにしろ正体不明で凶暴らしいクリーチャーとして登場するのに、なぜ初期から心があれほどスムーズに通い合ったのか分からない。

コメディだとして見ると、キャラクターがみんなきっちり役割を果たしてくれるし、面白いし、それぞれの演技もすごみがあるし、映像は文句なしに美しいし、まったく不満はないんだけど、ラブロマンスとしては感情の機微に説得力がなくて私は全く乗れなかった。それに、コメディだと考えても納得いかない登場人物の行動はいくつかある。

たとえば、ゼルダの夫がラストシーン近くで見せるある行動。ドラマを前に進める上では大変重要だけど、夫の感情のありかが謎だし、ゼルダがそれに対してあきれたのか、愛を感じたのか、それともほっとしたのか不明でもやもやする。

また、イライザの友人ジャイルズが途中で片思いの相手に振られるシーン。そりゃまあ気の毒ではあるけれど、彼のことを基本的に穏やかで温和な人間だと思っていたのに、恋愛においてはそんなストーカー的かつセクハラ的な行動をするのかと思うと、ヤバいし、端的に不快。彼がマイノリティだというだけでは同情しきれない人格的な問題を感じさせる。しかし作中では一貫していい人ポジションだったので、あの描写の意味がよくわからない。

 

こうした登場人物の中で、実は一番心の機微がよくわかったのはマイケル・シャノン演じる狂気のマッチョ、ストリックランドだ。

彼は、重要機密である魚人を施設から盗み出された咎で上長から叱責を受ける。その時彼は「私は今まであなたの忠実かつ優秀な部下だった。それをたった一度の失敗で切り捨てるのか」と魂をかけて訴える。これに私、すごくぐっときたんですよ。「ほんまにその通りやで!」と思った。こうした理不尽な叱責の場面で、実際にそのようなまっとうな反論をできる人間は少ない。私も今度、業務上のミスで人格を否定されるようなことがあればぜひそう言おう、と誓ったぐらい。しかし上長は彼のその切実な訴えをはねのけてこういう。「まともな人間は一度だって失敗しない」と。

うわー、最低。人間誰しも失敗するに決まってるじゃないですか。失敗をゼロにするには死ぬしかないで。なんしかこいつは上司として最悪のタイプです。しかしそう言われたマイケルシャノンは切羽詰まって暴走する。そりゃそうよなー。分かる。よく分かるよ! マイケルシャノンの壮絶な死に様に「I'll be back」と溶鉱炉に消えたターミネーターの姿を重ねて哀切を感じた。

 

あと、イライザの入浴シーンのおっぱいがよかったです。形も質感も色もめちゃきれいです。映像美を尽くしたああいう映画の中にあって、人間の裸の肉体の一部分がやはりあんなに美しいとは……! 監督の人間賛歌をここに見ました。いいものみた。おっぱい! おっぱい! 

 

一方、マッチョのセックスシーンはお尻の部分にボカシが入っていて、とても醜い。でももともと美しいシーンではないので、ボカシ効果で一層醜さが際立ってよかったかもしれない。彼は妻とのセックスの最中に、話そうとする妻の口を腐りかけの左手でふさぐ。女が喋ると反射的にイラつくタイプの男なのでしょう。だから声を出せないイライザを誘惑しようとしたに違いない。

ほら、やっぱり彼の感情の機微はよくわかる。

 

シェイプ・オブ・ウオーターは、なんといっても、マイケル・シャノンの映画だと思う。 マイケル・シャノン! マイケル・シャノン