うだうだと考える日記

読んだ本や観た映画、日々の雑事のあれこれ ネタバレはないはず。

『阪急電車』今津線各駅停車の旅(1)キラキラの宝塚駅

 最近とてもよく本を読んでいる中1の娘が「阪急今津線に乗りたい。特に小林(おばやし)駅に降りたい」と、妙なことをいうので理由を聞くと、有川浩の『阪急電車』を読んだので、実際にその舞台になっている阪急今津線に乗って駅の周囲を順番に散策したいのだという。

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 おもしろいね、ということで、日曜日に、阪急電車阪神電車の全路線が1日乗り放題になる「阪急阪神1dayパス」を買って出かけることにした。ちなみに阪急も阪神も関西の私鉄で、大阪を神戸をつなぐメインの路線が競合している上にそれぞれの沿線文化もかなり違うのだが、2006年にその個性を保ったまま経営統合されていて、こういうよくわからないお得なきっぷが発売されていたりする。

 さて、阪急今津線は、北は宝塚歌劇のまちとして知られる宝塚駅宝塚市)から、南は西宮の臨海エリアの今津駅(西宮市)まで、わずか10駅、総距離10km未満のマイナーな路線だが、そもそも神戸−大阪間というのは、東西に細長くベルト状に文化が発達したエリアであり、それを南北に横切るこの今津線は、実は文化の重層をコンパクトに感じさせてくれる路線でもある。移動距離の短さの割に多様性に富んでいるのだ。そういう意味では、駅ごとに物語を紡いでゆくオムニバス小説のモチーフにはいかにも適しており、この小説を書こうという有川浩のセンスに共感する沿線住民は多いと思う。

 ただし、この路線は面白いことに途中の西宮北口駅でいったん途切れており(1980年代の駅舎改修によるもの)、北側8駅(宝塚、宝塚南口、逆瀬川、小林、仁川、甲東園、門戸厄神西宮北口)と、南側3駅(西宮北口阪神国道、今津)は別々のホームからそれぞれ折り返し運行をしている。そして、「今津線」とはいいながら、今津を含まない北側8駅の方が存在感が大きく、小説『阪急電車』の舞台も北側8駅のみとなっている。

 

 現在の私の住まいは阪急神戸線沿線にあるが、学生時代、初めての一人暮らしの地が今津線沿線だったので、それぞれの駅にはそれなりの思い出がある。ただし、大学を卒業してからはめったなことでは用事がなくなり、近い割には心理的に遠い地となっていたため、懐古の期待も少々感じながらの出発となった。

 

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 まずは一気に宝塚駅に向かう。この沿線は学校が多いので、平日の朝などはぎゅうぎゅうのすし詰めになるのだがこの日は日曜日で比較的乗客は少ない。西宮北口で最後尾の車両に乗り込んで後方に流れてゆく風景をぼんやりと眺める。宝塚は六甲山系の麓の街なので、この電車は坂を上りながら山をめざす。いってみればマイルドな登山電車なのだ。高架化されていないため、電車が通り過ぎた後に踏切が開くと、歩行者や自転車が線路を横断していくのが見える。スーツ姿のサラリーマンなどはほぼおらず、買い物袋を提げた女性、友達と連れだって歩く学生、郵便局の配達のバイクといった層に、文教と結びついた静かな住宅の街の個性が見える。

 標高が少しずつ上がり、背後に風景が広がっていく。

 

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 宝塚駅は、阪急電車阪急電車たるアイデンティティが詰まった特殊な駅だ。

 改札を出た瞬間、パッと空気が明るくなるのを感じる人は多いと思う。屏風のように立派な六甲山を背後に控え、ゆったりと流れる武庫川の畔には温泉が湧き、豪華絢爛な宝塚歌劇は毎日上演されている。自然に人工を埋め込んだスポットライトのような白い明るさ。阪急電鉄創始者小林一三が100年も前に拓いたこの街が、この21世紀に、他の街には決して見られないこの特殊な明るさを保っているとは本当に奇跡のようだ。

 

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 駅から宝塚大劇場を結ぶのは「花のみち」。宝塚歌劇団のシンボルである菫や薔薇ほか四季の花が咲く可愛い遊歩道だ。しかし私と娘は、その小道に至る手前のショッピングモール「ソリオ宝塚」の広場でたまたま開催されていたハンドクラフト展に吸い寄せられてしまう。

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 娘はきらきらと光を通す透明なものが大好き。

 昭和初期のレトロガラスやガラスビーズを組み合わせたステンドグラスの小物は、光を透過させると色が重なったり揺れたりして本当にきれい。こういうきれいなものが家にあれば、嫌なことがあった時のお薬になるから安心だね、、とわけのわからない理屈をつけ、二人でたっぷり時間をかけて、ミニチュアの本棚と、ガラスが詰め込まれたガラス瓶のモチーフを選ぶ。

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 思わぬ寄り道をしてしまったけれど、いかにも宝塚らしい買い物だわ、とほくほく。

 カバンの中に入れたガラスのことをなんとなく気遣いながら初夏の眩しい光の中に出る。

 ミニチュア本棚に使われているガラスは、セントラル硝子の「あさおり」というのものだそう。

 

 

(つづく)

 

 

阪急電車 (幻冬舎文庫)

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