うだうだと考える日記

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覚醒せよ! ユーミン『DA・DI・DA』の80年代エネルギー

 

こないだからスイッチが入って、ユーミンの1985年のアルバム『DA・DI・DA』を鬼リピートしている。仕事しながら聴き、買い物しながら聴き、ごはん食べながら聴き、走りながら聴き、電車乗りながら聴き、筋トレしながら聴き、歩きながら聴いた。

こんだけ聴いたら分かることがある。とにかく『DA・DI・DA』に出てくる女は超身勝手で、男を踏みつけまくっている。それに、若い。あと、景気がいい。懐かしい……。

 

ユーミンはとにかく驚くばかりの高クオリティの楽曲を50年近くも!!!!生み出し続けてるわけで、本当にすごいとしかいいようがないが、わたしはずっと聴き続けているわけじゃなくて、「懐かしい」と思えるのは80年代のいくつかのアルバムだけだ。具体的にいうと、1981年の『昨晩お会いしましょう』、1984年の『NO SIDE』、1985年の『DA・DI・DA』、 1988年の『Delight Slight Light KISS』。

 

当時一番よく聴いてたのは『Delight Slight〜』だけど、聞き返すと『DA・DI・DA』がめっちゃ新鮮だ。この中でダントツに景気がいいしな。当時は子どもちゃんだったのでイマイチわかってなかったんだけど、とにかく今聴くと、景気のいい時代の若い女の生命力がビシビシと伝わってきて面白いのだ。牽強付会すれば、すべての曲が一人の女を歌っているようにも思えるストーリー性にも唸る。暇な人だけ全曲レビューを読んでくれ!

 

 

1/もう愛は始まらない

いきなり男を見限る女のうたである。いや、実際のところ、裏切ったのは男の方かもしれんけど、別れの主導権を握るのはあたし! という強固な意志。「さわらないで!」とか「見つめないで!」とか、なんしか「Don't」の気持ちがすげー強くて痛快。終わったものは終わったのだから、修復は不可能なのである。DA・DI・DAとは、男を捨て、前にずんずん進む女の脚が刻むリズムである。力強いオープニングチューン。

 

2/2人のストリート

景気のいいこのアルバムの中でもピカイチに景気がいい曲。情景喚起力が高すぎる歌詞で描写される風景はまるでトレンディドラマである。クリスマスシーズンの大都会、渋滞に巻き込まれた男の車から勝手に降りて、ドアをヒールで蹴飛ばす女。その女を追いかける男。クラクションに包まれて抱き合うふたり……。って「さすがにそれは迷惑では……」と思うでしょうが、こんな感じのトレンディドラマは当時、まじで毎日のようにテレビで放映されていたのだ。三上博史浅野ゆう子で脳内ビジュアルを作り上げたらリアリティありすぎて、ほんまにそんなドラマあったっけかと錯覚しそうになった。平成の男女はもうこんな迷惑行為しないよね。残念やわ。

 

3/BABYLON

打って変わって幻想的な一曲。だけど歌詞にびっくりよ奥さん。田舎から出てき大学デビューして2年。オールで夜遊びする女の自己陶酔ソングなのだ。しかも自己陶酔のスケールがでかい。すっかり都会の水に洗われて美しくなったあたし。見下ろす朝の東京(NYかもしれませんが)は、古代都市バビロンのように美しい……。そしてわたしはこの街のヒロイン……。て、おいおい正気か。でも、そんな彼女も、華やかな時代は、人生のうちのほんの一瞬であることを実は知っているのである。「なんで涙が出るの?」とかいうてますが、そういうことです。短大ならもうすぐ卒業、4大でもあと2年。花の命は短い。これからどうする? という話ですよ。

 

4/SUGAR TOWNはさよならの町

むっちゃ可愛くて明るいメロディーだけど、これは割と悲しい別れの歌ですね。初雪が町を白く染めた朝、男は出てゆく。女はひとり雪国で冬を迎える。曲調が明るいだけに切ない。これは先のBABYLONの自己陶酔女の過去かもしれない。かつて一方的に捨てられる存在だった、野暮で純だったかつての女の姿かもしれない。

 

5/メトロポリスの片隅で

都会で働くOLソング。BABYLONの女が就職したんかな。パワーアップしているようで何よりです。「さよ〜なら、あの人〜♪」と、冒頭でいきなり彼氏を「あの人」呼ばわり。振り切って通勤電車に乗り込んだらもう彼のことは忘れて、次の恋を探す。だって「わたしは夢見るシングルガール」だから。なんて逞しいのでしょうか。夏の恋は冬に精算するぐらいがちょうどいい。未来のない関係に時間を費やしても仕方ないしね。「悲しくなんかなんわ」と言い放つ女に漂うエルサ感が最高。

 

6/月夜のロケット花火

これはサークラ女の曲である。大学のサークル仲間で、季節外れの花火を打ち上げるあたしたち。あたしに気があるAくんは、卒業が悲しいのかしんみりしちゃってるけど、気づかないふりしちゃうあたし。大学の仲間とくっつく気なんてないもんね。そして「どこで会っても、今まで通りバカを言ってね」と、無邪気を装って男にクギを刺す。なんかこの女、30年後ぐらいに「忙しくしてる? ず〜っと会いたいと思ってたんだ」とかFacebookからメッセージ送りそうな雰囲気あるよね。Aくん、ちゃんと拒否るんだよ! 

 

7/シンデレラ・エクスプレス

健気な遠距離恋愛ソングだが、ここに女の打算が見てしまうのは私の性格が悪いからだろうか。いろんな男とつきあってきたけど、今の彼氏は大企業に就職を果たした一番の有望株である。いきなり地方に配属されちゃうのはこの会社の典型的なエリートコースなんだって! 今は寂しいけど、絶対、東京に帰ってくるし、そしたら結婚するし、それまでは遠距離恋愛がんばっちゃうもんね、というね。シンデレラは遠距離恋愛の物語ではなく上昇婚の物語だからね。

 

8/青春のリグレット

夢を追う男を捨てた女の悔恨ソング。しかし、その言い分がすがすがしいまでに自己中心的で素晴らしい。魅力的でセクシーで、掛け値なしに好きだと思える男を、将来性がないという理由で見限っただけの話なのに「あなたが本気で見た夢をはぐらかしたのが苦しいの」と後悔してみせる。ほんまに後悔してるなら今からでも追いかければいいのに「夏のバカンスを胸に秘め、普通に結婚していくの」ってなんやねんと。それ「普通に結婚」じゃなくて「打算で結婚」なんやけど。シンデレラ・エクスプレスの男やろ。わかるで……。さらに「わたしを許さないで。憎んでも覚えてて。」と、自分だけは永遠に彼の中で「特別な女」として存在し続けることを相手に要求。えぐい。でも、言い分の勝手さには女自身も気づいているのだ、本当は。その上で「あたしって悪い女」と陶酔する。そんな思い込みが若い頃には必要なこともあるのだよ、としみじみ。私などはさすがにそんな感情はなくなってしまった。ほんまにリグレットやわ。若いってええねえ。

 

9/たとえあなたが去って行っても

ぐるぐるとリグレットする前曲がプツッと途切れた瞬間、高らかに鳴り響く覚醒のラッパ!

今までの伏線を全部ひっくり返すのがラストのこの曲である。泣ける。

4月。女は打算をやめて、全く新しい道に踏み出すのである。

まず、捨てられなかった最後の手紙を破り捨てる。これはリグレットの男の手紙ちゃうか、と私はにらんでいる。そして、シンデレラ・エキスプレスの男も去って行く。男の夢につきあうのも、打算で男に生活を保証してもらうのももうやめた。自分は自分のしたいことをすることにした、という高らかな宣言である。「ずっと探す心のgolden treasure」「ずっと遠くひとり旅をする」。ついに気づいたか! という感動。なんて素晴らしいラストなの。これがまた冒頭の『もう愛は始まらない』にきれいにつながるという。

 

このアルバムの裏テーマは、「時間の不可逆性」ではないかという気がする。壊れたものは元に戻らない。冬には、夏はもう思い出になっている。時代はめぐるし、同じ日は二度とこない。だから常に、前に進むことが大事なのだ。

 

 

DA・DI・DA(ダ・ディ・ダ)/松任谷由実

DA・DI・DA(ダ・ディ・ダ)/松任谷由実

 

 

DA・DI・DA (ダ・ディ・ダ)

DA・DI・DA (ダ・ディ・ダ)